逝かない身体

「逝かない身体」

 

 川口有美子 著

 医学書院

 

何年か前,金沢から飛行機に乗って東京へ向かう時,シートのリクライニングがうまくいかなかった時のことを思い出しました。頭をぐぐっと自分で押し込むようにすれば簡単に角度調整ができるはずなのですが,シートの大きさが私には少し大きすぎて,うまく力が加わらず,仕方なくキャビンアテンダントの助けを借りました。笑顔のCAの「これでよろしいですか」との問いに「有り難う」とやはり笑顔で答えた私ですが,心の中では「しょうがない。ほんのちょっとのフライト時間だもの,我慢しよう」と思っていました。

僅か1ミリの体の起き場所について,わずかに動く瞼や唇を駆使して,他人に自分の訴えを伝達していく…それは何か特別なことのように読み始めの時は感じていましたが,それは快適な生活を送るために食べる物や着るものを日々選びとって行く日常と,何ら変わりはないことなのだなあと思いました。

ほんの少しですが,訪問介護の現場に職を得ていた時があります。事あるごとに「利用者さんの気持ちになって,利用者主体の介護を」といわれていましたが,その時の言葉は,何と薄っぺらなものだったか。

この本を読み終わってから,介護の仕事に対する意識が少しですが変化した気がします。

「…末期の看病と,そこにたしかに存在する希望とを私は描いてみたかった…」というあとがきが印象的でした。