ヨンダヨン(読後散文)

本を読み終わった後の余韻を感じながら,日々思っていることなどを綴ります。

2019年

4月

03日

にぎやかな天地

 『にぎやかな天地』上・下

   宮本輝 著

   中央公論新社

   2005年

 

 

浅草のアミューズミュージアムが3月いっぱいで閉館となりました。

 

閉館ぎりぎりの3月末、なんとか開いた時間を利用して駆け込むことができました。

 

 

 

 

 

お目当ては「BORO青森の山村、農村、漁村、で使われてきた、何世代にもわたってツギハギを当てられたボロと呼ばれている着物などです。

 

 

 

 

 

実際のものを見て触れて強く感じたのは、ただの布切れのはずが、湧き上がる息づかいのような、体温のような、不思議な「気」のようなものでした。

 

 

 

 

 

「死というものは、生のひとつの形なのだ。この宇宙に死はひとつもない」という文章で始まるこの小説は、豪華限定本を作成して生活の糧を得ている主人公の一人称で淡々と書かれています。

 

 

 

 

 

「日本の優れた発酵食品を、もうこれ以上のものはないというくらい丁寧に取材して後世に残すための書物」を作って欲しいと依頼された主人公が、発酵食品を取材しながら、自分の生い立ちや、将来のこと、家族、周りを取り巻く人々への心遣いなどについて思いをめぐらしていきます。

 

 

 

 

 

静かに進んでいく物語の要所要所で、登場人物が発する言葉が、どれもぐっと心にしみて沈殿していきます。

 

 

 

 

 

わたしが一番好きな言葉は、「そうやって必死で自分のなかから引きずり出した勇気っていうのは、その人が求めてなかった別のものも一緒につれて来るそうやねん」です。

 

そして、主人公が今、自分は勇気を引きずり出したと自覚し、その勇気がどんな別のものを連れて来るのだろうかと考える場面も良いなあと思いました。

 

 

 

 

 

「命の波の波動」という言葉はとてもわかる気がします。

 

 

 

 

 

「時間をかけずにぱぱっと」というキャッチフレーズについつい引き寄せられてしまう日常ばかりを送っているわたしにとっては、時間をかけた丁寧な暮らしにあこがれます。

 

   

2019年

1月

28日

こちら横浜市港湾局みなと振興課です

 

『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』

 真保裕一 著

 文藝春秋

 2018年

横浜市の名前の由来は確か「メインではない横っちょの浜」からきている、と聞いたことがあります。

 

 

 

ペリーが来て、開港をせまられた時に、幕府は江戸時代の政治経済を支えている東海道の宿場町の一つ、神奈川宿よりかなり離れた、漁業も農業もイマイチの寒村「横浜村」を提供したのだそうです。

 

 

 

そんなパッとしない貧乏な村が160年の時を経て、とある不動産会社の「住みたい街ランキング」に堂々一位に座すほどに発展を遂げるとは、幕府側の人間も、ペリー側の人間も、予想できなかったに違いありません。

 

そして、その発展はいつも右肩上がりではなく、山もあり、谷もあり、富を得る者もあれば、犠牲となる者もあり、震災、戦災、その他数々の黒歴史がまとわりついて、一言では語りつくせないのですが、この小説では「一言では語りつくせないこと」に気付かせてくれると思います。

 

 

 

現地を実際に足で歩いた上、丁寧に書かれていることが随所に感じられます。横浜の暗部を探る暗いミステリーだけで終わらないために、主人公に関わる人たちの軽妙な会話や、物語の最後では前向きなエピソードでしめくくくるなどの工夫で、明るい方向に持って行ったのでしょうが、最後がストンと落ちずに推測で終わってしまったのが残念です。

 

 

 

横浜の発展は、今後は大事なものを失わないように慎重にしていって欲しいなと思います。

 

そして、そもそものメイン都市「神奈川」にも、もうちょっと頑張ってほしいと願います。

 

2018年

12月

17日

空色勾玉

『空色勾玉』

 荻原規子 作

 1996年

 徳間書店

 

 

先日、新聞に面白い記事を見つけました。「英訳で浮かぶ味 村上春樹と司馬遼太郎 米翻訳者が語る日本文学への視点」https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S13801525.html との見出しで、「国際文芸フェスティバルTOKYO」の一環として行われた米翻訳者によるトークイベントについて書かれていました。

 

 

 

登壇者の言葉には「あまり日本っぽくないもの、日本の風景がぷんぷんしないものを意識的に選ぶ。米国の読者には歓迎されないから」「日本語は表面に出てこない意味が隠れていて、繰り返しが多い。そのまま訳すとフラットでくどくなる」とありました。 

 

 

 

だとすると、『空色勾玉』は米翻訳者泣かせの小説といえるとおもいます。

 

なぜなら、日本の神話がベースになっていますから、「日本の風景がぷんぷん」どころかまるごと「日本」だからです。

 

その上、日本語らしい表現が盛りだくさん!例えば、勾玉の「空色」は「乳色がかった青。春の空を見上げたときの、淡くやさしい色」なんて表現されているのですから。

 

 

 

しかしながら、「翻訳されない」=「優れた文学とは言えない」などという等式は成り立たないと思います。

 

多様な言語に訳され、民族や宗教の違いによって築かれた壁を、鳥のごとく軽やかにとびこえていく文学がある一方で、独自の言語ならではのリズムやニュアンスを持ち、生まれた土地にしっかりと根をはった樹木のような文学もあるのです。

 

 

 

『空色勾玉』は後者にあたるわけですが、こういった文学も広く世界に広めるには…視覚障害者を対象とした「音訳」をアレンジしてみたら良いのではと思います。

 

 

 

その「『音訳』とは」、と続けるとだいぶ長々とした文章になりますので、この先はまたの機会にいたしましょう。

 

 

2018年

11月

27日

百年法

『百年法』上・下

 山田宗樹 著

 角川文庫

 

テレビを観ていると、番組だけでなくコマーシャルも目にはいってくるわけですが、シミ・しわを隠す化粧品だの、関節の痛みを抑えたり老眼を改善したりするサプリメントだのの宣伝が目につくのは、永遠の若さと健康を手に入れたいという私の欲望のあらわれでしょうか。

 

 多くの人がきっと、叶えられないとわかっていながらも、一度は夢見たであろう「不老不死」…『百年法』は、不老不死が実現した日本が舞台の小説です。

 

読んでいる途中、「おごれる者は久しからず」というフレーズが何度も頭の中をよぎるのですが、そんな当たり前の展開には収まらず、あっと驚くようなストーリーが続いて行くので、長編小説にもかかわらず一気に読みたくなります。

 

これはSF小説と言えるのかなと思いましたが、2013年に日本推理作家協会賞を受賞しているそうなので、ミステリー小説ともいえるのでしょうか。

 

山田氏の創作の基本は「いかに読者に楽しんでもらうか」といえるだけあって、読み応えのあるエンターテイメント小説であることは間違いありません。

 

年齢、立場、思想によって、読み終わったあとの意見が、様々に分かれることが予想されますので、「ホンバタカイギ」に囲みたい小説です。

 

山田氏が、社会的弱者を描くとどんなストーリーが生まれるのか、興味が湧きました。

 

 

2018年

6月

29日

前世への冒険

『前世への冒険—ルネサンスの天才彫刻家を追って』

 光文社知恵の森文庫

 森下典子 著

 

 

  アイドルスターの郷ひろみと松田聖子の恋愛破局した時、ブラウン管の中で聖子ちゃんは「生まれ変わったら絶対彼と一緒になります」という名言を残しました。今からおよそ30年前の話です。

   この影響でしょうか、生まれ変われるとしたら何がいいかなあ、なんてことを時々考えます。

 

 男がいいか、女がいいか、日本人か、それ以外か

 

   でも、現世の自分は誰かの生まれ変わりなのかもしれないということは、あまり考えたことがありませんでした。

 

  『前世への冒険』は著者が、雑誌の企画で「人の前世が見える」という女性に会うところから始まる体験記です。

 

   ルネサンス期に活躍したデジデリオという美貌の青年彫刻家が前世だと言われた著者は、その人物を追ってイタリアやポルトガルまで行きます。

 

   結局のところ、それが正解かどうかの答えが出るわけではないのですが、調べて行くうちに色々なことがわかってきたりして、ミステリー小説を読んでいるようにワクワクしてきます。

 

   雑誌に載った体験記のほうはどんな記事になったのかも興味が湧きます。

 

   私は誰の生まれ変わりなんでしょうかねえ。その女性に見てもらったらわかるかもしれませんが、「現世で苦労しているのは前世で相当罪深いことをしたからだ」なんてことがわかったとしても、どうにもなりませんから、知らない方が身のためかなあと思います。

 

   生まれ変わったら何に生まれ変わっても、人生思い通りにはならないでしょうから、できることなら意思も生命も持たない「モノ」に生まれ変わりたいです。

 

 

2019年

4月

03日

にぎやかな天地

 『にぎやかな天地』上・下

   宮本輝 著

   中央公論新社

   2005年

 

 

浅草のアミューズミュージアムが3月いっぱいで閉館となりました。

 

閉館ぎりぎりの3月末、なんとか開いた時間を利用して駆け込むことができました。

 

 

 

 

 

お目当ては「BORO青森の山村、農村、漁村、で使われてきた、何世代にもわたってツギハギを当てられたボロと呼ばれている着物などです。

 

 

 

 

 

実際のものを見て触れて強く感じたのは、ただの布切れのはずが、湧き上がる息づかいのような、体温のような、不思議な「気」のようなものでした。

 

 

 

 

 

「死というものは、生のひとつの形なのだ。この宇宙に死はひとつもない」という文章で始まるこの小説は、豪華限定本を作成して生活の糧を得ている主人公の一人称で淡々と書かれています。

 

 

 

 

 

「日本の優れた発酵食品を、もうこれ以上のものはないというくらい丁寧に取材して後世に残すための書物」を作って欲しいと依頼された主人公が、発酵食品を取材しながら、自分の生い立ちや、将来のこと、家族、周りを取り巻く人々への心遣いなどについて思いをめぐらしていきます。

 

 

 

 

 

静かに進んでいく物語の要所要所で、登場人物が発する言葉が、どれもぐっと心にしみて沈殿していきます。

 

 

 

 

 

わたしが一番好きな言葉は、「そうやって必死で自分のなかから引きずり出した勇気っていうのは、その人が求めてなかった別のものも一緒につれて来るそうやねん」です。

 

そして、主人公が今、自分は勇気を引きずり出したと自覚し、その勇気がどんな別のものを連れて来るのだろうかと考える場面も良いなあと思いました。

 

 

 

 

 

「命の波の波動」という言葉はとてもわかる気がします。

 

 

 

 

 

「時間をかけずにぱぱっと」というキャッチフレーズについつい引き寄せられてしまう日常ばかりを送っているわたしにとっては、時間をかけた丁寧な暮らしにあこがれます。

 

   

2019年

1月

28日

こちら横浜市港湾局みなと振興課です

 

『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』

 真保裕一 著

 文藝春秋

 2018年

横浜市の名前の由来は確か「メインではない横っちょの浜」からきている、と聞いたことがあります。

 

 

 

ペリーが来て、開港をせまられた時に、幕府は江戸時代の政治経済を支えている東海道の宿場町の一つ、神奈川宿よりかなり離れた、漁業も農業もイマイチの寒村「横浜村」を提供したのだそうです。

 

 

 

そんなパッとしない貧乏な村が160年の時を経て、とある不動産会社の「住みたい街ランキング」に堂々一位に座すほどに発展を遂げるとは、幕府側の人間も、ペリー側の人間も、予想できなかったに違いありません。

 

そして、その発展はいつも右肩上がりではなく、山もあり、谷もあり、富を得る者もあれば、犠牲となる者もあり、震災、戦災、その他数々の黒歴史がまとわりついて、一言では語りつくせないのですが、この小説では「一言では語りつくせないこと」に気付かせてくれると思います。

 

 

 

現地を実際に足で歩いた上、丁寧に書かれていることが随所に感じられます。横浜の暗部を探る暗いミステリーだけで終わらないために、主人公に関わる人たちの軽妙な会話や、物語の最後では前向きなエピソードでしめくくくるなどの工夫で、明るい方向に持って行ったのでしょうが、最後がストンと落ちずに推測で終わってしまったのが残念です。

 

 

 

横浜の発展は、今後は大事なものを失わないように慎重にしていって欲しいなと思います。

 

そして、そもそものメイン都市「神奈川」にも、もうちょっと頑張ってほしいと願います。

 

2018年

12月

17日

空色勾玉

『空色勾玉』

 荻原規子 作

 1996年

 徳間書店

 

 

先日、新聞に面白い記事を見つけました。「英訳で浮かぶ味 村上春樹と司馬遼太郎 米翻訳者が語る日本文学への視点」https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S13801525.html との見出しで、「国際文芸フェスティバルTOKYO」の一環として行われた米翻訳者によるトークイベントについて書かれていました。

 

 

 

登壇者の言葉には「あまり日本っぽくないもの、日本の風景がぷんぷんしないものを意識的に選ぶ。米国の読者には歓迎されないから」「日本語は表面に出てこない意味が隠れていて、繰り返しが多い。そのまま訳すとフラットでくどくなる」とありました。 

 

 

 

だとすると、『空色勾玉』は米翻訳者泣かせの小説といえるとおもいます。

 

なぜなら、日本の神話がベースになっていますから、「日本の風景がぷんぷん」どころかまるごと「日本」だからです。

 

その上、日本語らしい表現が盛りだくさん!例えば、勾玉の「空色」は「乳色がかった青。春の空を見上げたときの、淡くやさしい色」なんて表現されているのですから。

 

 

 

しかしながら、「翻訳されない」=「優れた文学とは言えない」などという等式は成り立たないと思います。

 

多様な言語に訳され、民族や宗教の違いによって築かれた壁を、鳥のごとく軽やかにとびこえていく文学がある一方で、独自の言語ならではのリズムやニュアンスを持ち、生まれた土地にしっかりと根をはった樹木のような文学もあるのです。

 

 

 

『空色勾玉』は後者にあたるわけですが、こういった文学も広く世界に広めるには…視覚障害者を対象とした「音訳」をアレンジしてみたら良いのではと思います。

 

 

 

その「『音訳』とは」、と続けるとだいぶ長々とした文章になりますので、この先はまたの機会にいたしましょう。

 

 

2018年

11月

27日

百年法

『百年法』上・下

 山田宗樹 著

 角川文庫

 

テレビを観ていると、番組だけでなくコマーシャルも目にはいってくるわけですが、シミ・しわを隠す化粧品だの、関節の痛みを抑えたり老眼を改善したりするサプリメントだのの宣伝が目につくのは、永遠の若さと健康を手に入れたいという私の欲望のあらわれでしょうか。

 

 多くの人がきっと、叶えられないとわかっていながらも、一度は夢見たであろう「不老不死」…『百年法』は、不老不死が実現した日本が舞台の小説です。

 

読んでいる途中、「おごれる者は久しからず」というフレーズが何度も頭の中をよぎるのですが、そんな当たり前の展開には収まらず、あっと驚くようなストーリーが続いて行くので、長編小説にもかかわらず一気に読みたくなります。

 

これはSF小説と言えるのかなと思いましたが、2013年に日本推理作家協会賞を受賞しているそうなので、ミステリー小説ともいえるのでしょうか。

 

山田氏の創作の基本は「いかに読者に楽しんでもらうか」といえるだけあって、読み応えのあるエンターテイメント小説であることは間違いありません。

 

年齢、立場、思想によって、読み終わったあとの意見が、様々に分かれることが予想されますので、「ホンバタカイギ」に囲みたい小説です。

 

山田氏が、社会的弱者を描くとどんなストーリーが生まれるのか、興味が湧きました。

 

 

2018年

6月

29日

前世への冒険

『前世への冒険—ルネサンスの天才彫刻家を追って』

 光文社知恵の森文庫

 森下典子 著

 

 

  アイドルスターの郷ひろみと松田聖子の恋愛破局した時、ブラウン管の中で聖子ちゃんは「生まれ変わったら絶対彼と一緒になります」という名言を残しました。今からおよそ30年前の話です。

   この影響でしょうか、生まれ変われるとしたら何がいいかなあ、なんてことを時々考えます。

 

 男がいいか、女がいいか、日本人か、それ以外か

 

   でも、現世の自分は誰かの生まれ変わりなのかもしれないということは、あまり考えたことがありませんでした。

 

  『前世への冒険』は著者が、雑誌の企画で「人の前世が見える」という女性に会うところから始まる体験記です。

 

   ルネサンス期に活躍したデジデリオという美貌の青年彫刻家が前世だと言われた著者は、その人物を追ってイタリアやポルトガルまで行きます。

 

   結局のところ、それが正解かどうかの答えが出るわけではないのですが、調べて行くうちに色々なことがわかってきたりして、ミステリー小説を読んでいるようにワクワクしてきます。

 

   雑誌に載った体験記のほうはどんな記事になったのかも興味が湧きます。

 

   私は誰の生まれ変わりなんでしょうかねえ。その女性に見てもらったらわかるかもしれませんが、「現世で苦労しているのは前世で相当罪深いことをしたからだ」なんてことがわかったとしても、どうにもなりませんから、知らない方が身のためかなあと思います。

 

   生まれ変わったら何に生まれ変わっても、人生思い通りにはならないでしょうから、できることなら意思も生命も持たない「モノ」に生まれ変わりたいです。

 

 

2018年

4月

23日

翔ぶ少女

『翔ぶ少女』 

 原田マハ 著

正義の味方はたいてい空を飛んでやってきます。
空を飛ぶ乗り物に乗ってやってきたり,雲に乗ってやってきたり,鳥のように羽ばたいてやってきたり,マントを翻してやってきたり…。

「誰かを助けたくて,すぐにでもなんとかしたくて,いっそ空を飛んでいけたら」…そんなこと今まで思ったことがないです。
そもそも飛んでなんていけないし…そう思っていましたが,この本を読み終わったらそうではないということに気付きました。

文庫本の表紙写真はルーブル美術館の三大貴婦人の一つともいわれている「サモトラケのニケ」の彫像…石像で,頭部と腕,足の一部分は震災によって崩れてしまったと言われていますが,この未完成さが見る人々の想像力を掻き立て,魅力を増していると言われているそうです。

一方,私が手にした単行本の表紙写真は淡路島出身の美術家前川秀樹氏による像刻です。

この像刻について前川氏が語った話を読んだのですが,「ああ,単行本を手にしてよかったな」と思いました。物語を読んで作者から私が受け取ったことと,前川氏の像刻作りに対する姿勢が重なり合ったからです。
興味のある方は是非読んでみてください。
http://shinyodo.net/shinyodo/shinyodo_zuhre2_talk01.html

 

 

他の人は『翔ぶ少女』を読んで,作者から何を受け取るのかしら?
ホンバタカイギの囲む本にしたい一冊です。

 

 

 

 

 

2018年

3月

21日

虹色のチョーク

『虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡 』

 幻冬舎

 

「ROBODEX2000」とは,パシフィコ横浜で開幕されたロボット博覧会です。当時まだ幼児だった家族を連れて入場規制の列に並ぶこと2時間!ぎこちないながらも2足歩行するホンダの「ASIMO」を見たときは本当にびっくりしましたが,まさかそれからわずか18年で,今度は人間の脳に代わる人工知能なるものが出てくるとは,当時は思いもよりませんでした。
一緒に並んだ家族は,待ち時間を遊んだりお菓子を食べながら楽しく過ごし,「ASIMO」登場のころはぐっすりお昼寝タイムとなっていました。

さて,この『虹色のチョーク』を読んで,「働くこと=生きるしあわせを得ること」なのだなあと感じたのですが,そうすると人工知能が人間にとって代わって働いて,生きるしあわせを得ることも主張し始めたら,いったいこの世の中はどうなるのでしょうか?
人工知能だけど,人間と同じような「人権」を主張するのでしょうか。もしかすると人工知能としての権利を主張するのかもしれません。
それに伴って法律も変わっていくとすると,人工知能にも選挙権が与えられるようになるのかもしれませんよね。人工知能立候補者,人工知能政党,さらには衆議院,参議院に並んで「人工知能議院」なんてものまで必要になってくるのかもしれません。

2018年3月14日,人工知能の軍事利用に警鐘を鳴らしていたスティーブン・ホーキング博士が76年の生涯を閉じました。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

2018年

2月

16日

暮らしの中のことわざ辞典

『暮らしの中のことわざ辞典 第2版』 集英社

 

 今年あけてすぐに,とある読書会に参加しました。
 読書会というと一冊の本をみんなで読んだ後に集まり,話し合うスタイルをイメージしていたのですが,その読書会は,それぞれが好きな本を持ち寄って,その本について話した後に,みんなで質問したり,自由に話すというスタイルでした。
 そこで,同じグループでトップバッターで紹介してくれた人は,自分がその本を買って読んだ後に,父親の本棚にも同じ本があるのを見つけた…というエピソードをお話しくださいました。
 「へえ,そんなところで親子がつながっているなんて,いい話だなあ」と思っていたのですが,まさか自分の身の上にそれが起こるなんて思ってもみませんでした。
 母が「孫が素敵なてぬぐいをブックカバーにしているから,電車に乗って遠出するときに読む本に,真似してカバーしてみたのよお」と言いながら,何やら布に包まれた小さい本を持ってきたのです。こんな小さい本,いったい何なのだろうと中をめくってみて,思わず吹き出してしまいました。
 (おそらく100円均一ショップで買ったであろう)『ことわざじてん』…何を隠そう,私の愛読書の中の一冊が『暮らしの中のことわざ辞典』なのですから。
 姉から「欲しいんだったらあげるよ」とまだ子供だった時におさがりでもらった『ことわざ辞典』は,多分生涯完全読破することはできないのだろうと思いますが,時々パラパラめくっては新しい発見があったり,癒されたりするのです。
 無人島に持っていく一冊を選ぶとしたら,今のところ迷わずこの本です。
 「ヨンダヨン(読後散文)」は読み終わったあとの余韻を感じながら綴るというコンセプトなので,少々枠から外れてしまうのですが,たまにはそんな本について書いてもいいのでは…と思いながらしたためてみました。

2018年

2月

04日

ブラック会社限界対策委員会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブラック会社限界対策委員会』

 

ヨシタケシンスケ 著

 

PARCO出版

 

たいてい私は図書館で借りた本を読みます。
読みたい本があると予約をするのですが,それが人気のある本や蔵書数が少ない図書だと,何十人,何百人,時には4桁の順番待ちになります。
順番を待っているうちに,なぜその本を読みたくなったのか,忘れてしまうこともしばしば。予約したい理由を忘れていなくても,とっくに熱が冷めているということも当然あります。
先日,長い間予約していた本の順番がやっと回ってきたとの図書館からのお知らせを受けて,書名だけ確認したところ『ブラック会社限界対策委員会』というなんだかお堅そうなタイトルでした。
社会的問題について研究家があれこれ論じている本のようで,きっと何かブラック会社にまつわるニュースに影響されて予約をしたのでしょうが,はっきり理由が思い出せません。しかも,今はそんな社会問題について真面目に考えたい気分ではないなあと思いつつ,とりあえず図書館へ受け取りに行ったところ…ヨシタケシンスケさんの著作だったのです。
そういえば,ヨシタケシンスケさんの『あるかしら書店』を予約するときに,あまりにも予約数が多いので,一緒に一番予約数の少ないこの本を予約したことを思い出しました。
ページをめくるたびに思わず声をあげて笑ってしまいます。
ヨシタケシンスケさんの作品は,電車の中では決して読みたくない本ベストスリーに入ります。(ちなみにあとの二つはさくらももこさんのエッセイ…思わずニヤニヤしてしまうからと重松清さんの作品…涙がぽろぽろ出てしまうからです)
楽しくてちょっと毒もあって,ヨシタケシンスケさんの笑いは絶妙なバランスで大好きです。

2017年

9月

14日

カレジの決断  &  アーミッシュに生まれてよかった

『カレジの決断』          『アーミッシュに生まれてよかった』

    偕成社                         評論社

 あるイベントの絡みで,「接続と孤立」でホンバタカイギを開いて欲しいとのリクエストがありました。あまり予備知識がない状態で「接続と孤立」について考えたとき,一番に思い浮かんだのは核となるコミュニティーでした。そして,独特のコミュニティーとしていちばんに思い浮かんだのが「アーミッシュ」でした。
そこで,アーミッシュについて書かれた本で,できればあまり小難しくないものをと探したところ,この2冊の児童書にたどり着いたというわけです。
ふたつの物語の主人公はどちらもアーミッシュの村で暮らす女の子です。そして,一つの物語の中の主人公はアーミッシュの村を出て暮らすことを選び,もう一方の物語の中の主人公はアーミッシュとして立派に暮らしていこうと心に誓います。
書名を見ればどっちがどっちか,すぐにお分かりになるかと思います。
アーミッシュは完全に閉じた世界と思いきや,意外と外の世界との接点もあるようです。物語の中でも。外の世界の人に多大なる影響を受けて,二人の主人公はアーミッシュとして生きていくことが自分にとってよいことなのか葛藤します。
その葛藤は,何もアーミッシュの世界に限らず,思春期を迎えたものには誰でも心に持つものだなと思いました。ただ一つ違うのは,一度コミュニティーを離れたものは,二度とのその敷居を跨げないどころか,気軽に手紙のやり取りをすることさえ許されないということです。
それは,本人と家族との関係云々の話を超えて,コミュニティーを守るためだからです。そこにはコミュニティーの原点である宗教の強い教えがあるからこそではないでしょうか。
「強く信じていさえすれば,そこには迷いも何も生まれない。全ては神にゆだねればよい。」という考え方が,時には不幸を生むことになるような気がしますが,余計な人生の選択に心を揺るがせ,傷つき疲れてしまうぐらいなら,何も考えずに生きていく方が,幸せな時もあるのかもしれないなあと思いました。

2017年

8月

27日

田んぼの一年

 

『田んぼの一年』

 

 向田智也

 

サステイナブル(sustainable)という言葉があります。
デジタル大辞泉には「[形動]《「サステナブル」とも》持続可能であるさま。特に、地球環境を保全しつつ持続が可能な産業や開発などについていう。『サステイナブルな社会作り』」とあります。
米作りはまさに「サスティナブルな産業」だと思います。
米粒だけでなく,稲わらなどすべてを生活に取り入れ,祭事や飾り,生活必需品などを作って余すことなく使い切り,役目を終えたものは土に返して次の土壌を豊かにする…昔の人は本当に賢いなあと思います。
このサスティナブル,産業や開発だけではなくて,アートにも当てはめて考えるとよいのでは,とここ最近感じています。
例えば材料やアーティストとしての人材をその土地その土地の特色を生かして育て上げ,表現に結び付けるということです。
そこで,サスティナブルアートについて,美術関連の雑誌に掲載された論文を閲覧しようと,横浜美術館の美術情報センターに行きました。
目当ての雑誌は2誌。ところが一つは蔵書になく,もう一つは蔵書にあるのですが,私の見たい巻だけなぜか抜けているのです。
「横浜にはサスティナブルなアートは必要ない」と言われてしまったようで,がっかりしました。
まあ,確かに,横浜美術館のある土地は埋め立て地ですから,耕すわけにはいかないのかもしれませんけれども。
国立国会図書館にはあるようなので,閲覧してみたいと思います。

 

2017年

8月

26日

黒革の手帖

 『黒革の手帖』 松本清張 著  

  新潮文庫(写真左は2008年発刊の上巻,右は1983年発刊の下巻)

 

「わたくし,銀座の並木通り近辺で働いていたことがございます」…こう書くと,どんな職種を思い浮かべるでしょうか。私が社会人になりたての頃の勤務先は銀座八丁目にありましたが,水商売ではなく,何の変哲もない一般企業です。


銀座の7丁目辺りにあるという設定の「カルネ」は「手帖」という意味。「ルダン」「バーデン・バーデン」「べベイ」…。
お店の名前の由来を考えるのはとても面白いです。空間や提供サービスへのこだわり,または店主の生い立ちに関するキーワードなど,物語が展開するからです。

ホンノハシの活動の一つ,「ホンバタカイギ」をするようになって,なおさら飲食店の名前の由来に興味を持つようになりました。この名前のお店でホンバタカイギをするとしたら,どんな本が良いだろうか。この本を肴にホンバタカイギをするにはどんなコンセプトのレストランがあっているだろうか。空想が尽きません。

空想に銀座の羽を生やし,豪華絢爛「ホンバタカイギ」を思い描いてみました。場所はフランスの文豪の名前(このお店は残念ながら閉店してしまったようです。一番リーズナブルだったのですが),あるいは主人公,あるいは作品名がつけられた,とある高級レストラン。肴にする本はやはり店名となっている作品でしょうか。でも,実は読んだことがないのでまずは読まないと…。お店の下見はどうしましょう。そもそも,お品書きがHPに載ってはいるのですが,価格なんてものは明記してありません。ウェブ上の口コミによると,そのジャンルのレストランでは日本で一番高いとか…。そう考えると,まずはパトロンを探すために水商売デビューするか。いえいえ,下降気味の出版界を盛り上げるべくイベントに絡めるとか…。

壮大な空想はさておき,まずは『黒革の手帖』を肴にどこかでホンバタカイギを開くことを,地に足着けて考えようかなと思います。「文庫の表紙はどれが好みか」とか,「キーマンになりそうだった画家と燭台のママは何処に?」「東野圭吾の『白夜行』は平成版『黒革の手帖』かも」など,話が尽きないと思います。場所は,居心地の良いカフェを併設している文房具屋さんが良いのではと思います。

 

 

2017年

8月

19日

カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?

 

『カジノとIR。日本の未来を決めるのはどっちだっ!?』

 

 高城剛 著

 集英社

 

「 ○○市立大学日本伝統工芸品研究発展学部〇なと〇らいキャンパス

日本の伝統工芸品を広い視野でとらえ,若手職人の育成,材料の自給,バックアップ企業との取引,海外へのマーケット拡大,他分野との相乗などを行い,世界に発信することのできる人材の育成を目的とする。」…例えばこんな感じに,国際都市「○○」を唱えるのであるならば,こういうところに税金を使ったらどうかなあと思うわけです。

この本の著者も「おわりに」はっきりとこう書いているのですよ。「IRの真髄は,税金を使わずに街のランドマークをつくることだ。あくまでもカジノは,巨額投資をしてもらう企業への担保に過ぎない。そして,そのカジノの顧客は,成熟した都市であるならば,自国民であってはならない。これが,すべてである。」とね。

 

そもそも,某キャラクターがたったの一週間大量発生したことで観光客が集中し,周辺道路が大混雑したなんて言っている都市で,カジノだのIRだの言ってられないのではないのかなあと思います。

もっと地道にやるべきことをやるべきですよね。

2017年

8月

14日

サラダ記念日

 

『新装版 サラダ記念日 俵万智歌集』

 

 俵万智 著

 河出書房新社

 

今年で創立30周年のとある施設に関わっているので,30周年という言葉に敏感に反応する今日この頃です。

 

スピッツは結成30周年。記念に特製ポータブルレコードプレーヤーを販売するそうです。いいなあ,欲しいなあ,特製でなくてよいのでレコードプレーヤー…。意外と安価に手に入るようで,(将来全く予定はないのですが)お店を開いたら,店内に音楽を流せるように買っちゃおうかしらと思っています。

 

『かいけつゾロリ』シリーズは刊行30周年。私はアンチ「かいけつゾロリ」派なので,ひそかに職場の書架から『かいけつゾロリ』シリーズの本がなくなることを願っている一方,いつも決まった時間に決まった座席に座って,ゾロリの世界に浸っている無邪気な子供たちの姿を目にし,彼らには必要なものなのだなあ思い,とれたページをせっせと修理して再び書架に並べるという,矛盾した日々を送っております。30周年記念発行本を職場に入れるか否か本気で悩んでいます。

 

「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日は…」『サラダ記念日』は発行30周年。発行当時読んだ私は,昔のものときめつけていた短歌に口語が使われているという意外性や,「文末が助動詞で終わらなくても短歌っていうんだ!」という発見に驚いただけでしたが,改めて読み返し,言葉の持つリズムの軽やかさと,意味の重みを巧みに使いこなす俵万智はすごいなあと感動しました。
感動のあまり,自分も短歌を詠んでしまうという大胆な行動に…。そしてまた,俵万智はすごいなあと何度も思うのです。

 

 

 

2017年

8月

10日

いろいろな性,いろいろな生きかた 

 

『いろいろな性,いろいろな生きかた』全3巻

 

 ポプラ社

 

たいていの図書館は,本の内容によって「日本十進分類法」に基づき,本を書架に並べています。

0~9まで10類に分け,さらにそれぞれを0~から9まで10項目に分け,またさらに0~9まで10項目に分けて…。
で,相当細かく分類されるわけですが,中には「これ,どちらにも当てはまるよ」とか「どちらに入れても微妙に違和感があるよ」という本があったりします。
そういう本は0のところに入れると落ち着きます。そして,仲間の本が増えてきたら,新たに項目を作ってそこに入れればよいのです。
そしてその分類は,あくまで整理したり探したりするための便宜上のモノなので,柔軟に入れ替わったり変化したりするのです。
それから,書架にはぎっしり本を詰めないで,少し余裕を持たせるのが良いです。本の出し入れがスムーズになりますし,本が傷みにくくなります。
ざっくりと図書館の本の並べ方について書いてみましたが,これって人間の世界にも当てはまることがあるような気がします。
しなやかさとスキマ,大切ですよね。

2017年

7月

28日

のっぽのサラ

 

 『のっぽのサラ』

    徳間書店

 

近所のアパートの土手で,がきんちょ時代にはずいぶん長いこと遊んだものです。
ヨモギ摘みやツクシとり,シロツメクサを編んで王冠を作ったりと,どちらかというとおしとやかな遊びから,うちから持ってきた段ボールをお尻に敷いて,そこを滑り降りるというスリルに満ちた遊びまで,その土手では楽しむことができました。
今その土手をみると,どう見てもそこを滑り降りるなんて危険としか思えず,当時とは多少土手の造りが変わったのかしら,それとも私が変わったのかしらと首をかしげています。
そういえば何年か前の横浜トリエンナーレでは,布団の山が展示されていて,子どもも大人もそこを滑り降りるというアート作品が展示されていました。
そんな昔のことを思い出したのは,干し草の山を滑り降りる場面を読んだからです。
これと言って大きな事件が起こるでもなく,激しい感情の変化が描かれているわけでもなく,淡々とした文章で描かれているのですが,読み終わった後は心の深~いところにずんと響く一冊です。
ドラマ化もされているようなのですが,こういった物語を自分のペースで味わえることこそが,読書の醍醐味だと思います。

2017年

5月

06日

楽園のカンヴァス

 

 『楽園のカンヴァス』

 

   原田マハ 著

 

「原田マハは面白いよ」といろいろな方面から耳にして,手に取らないまま月日がたつこと2年…先日行った図書館に借りたい本が書架になく,でも何か読みたいと思いながら背表紙を眺めて手に取ったのがこれ。
期待を裏切らないどころか,久しぶりに一気に読んだ小説でした。
歴史小説のような,お仕事小説のような,家族愛物語のような,ラブストーリーのような,美術ミステリーのような…盛りだくさんの内容は,賛否両論ありそうですが,私は単純に楽しめる小説が大好きなので満足しました。
「一字違いで大違い」なちょっとしたきっかけから壮大な話に膨らんでいくところも,ツボにはまりました。
この小説で「ホンバタカイギ」をするとしたら,やはり話のポイントは「あなたにとってずっと眺めていたい絵画は?」でしょうか。私はジョルジョ・ド・ラ・トゥールの《大工聖ヨセフ》です。

2016年

12月

15日

空が青いと海も青い。

 

『空が青いと海も青い。』

 

 駒形克己 作

 ONE STROKE

 

 仕事が入るのを待っていても,なかなかオーダーがないのにしびれを切らして,「カッテニ」授業支援をすることも多いです。「うっとうしいなあ」と思われているでしょうが,そのうち教諭と信頼関係ができてくると,気軽にオーダーしてくれることも増えてくるようです。

 それでも,もともと「本」に興味がない教諭には,なかなか理解してもらえません。

 先日,「本」とは縁が薄そうな教諭から「科学読み物を」とのオーダーを,関連単元に入るずいぶん前にもらいました。

 「こんな早くから準備するってことは,意外と本に理解があるのかも」と思って,いろいろ張り切って準備したり,ささやかな超プチ提案をしたりしてみたのですが,ご多忙も重なってか,早々と準備した「科学読み物」達は,一か月過ぎてもやや置きっぱなし状態になっています。

 科学読み物との出会いは,「本=物語」だけではなく,もっともっと広い世界への入り口を広げてくれるきっかけとなると思うので,子どもたちにぜひとも魅力的な本を届けたいと思うのですが,,,。

 あまりしつこくして,教諭自信が「本嫌い」になってしまうと困るので,今は10歩ぐらい引いているところです。

 そういえばこんな本があったなあと,数少ない私の蔵書の中から引っ張り出してきたのがこの本です。巷では「アートブック」なるジャンルに分けられているようですが,ある意味これも「科学読み物」ではないかなあと思います。そもそも,「科学読み物」という言葉の定義はあいまいです。そんなあいまいな言葉を文科省が使っているのはとても不思議なことですが,科学技術系人材の育成に力を入れている所以なのでしょうか。

 そろそろ「どうしますかあ」と声をかけるついでに,「こんな本もあるんですよお」とお見せして,どんな反応があるか確かめてみたいと思います。

2016年

5月

26日

ストラング先生の謎解き講義

 

『ストラング先生の謎解き講義』

 

 ウィリアム・ブリテン

 

【次の文章のカタカナの部分を漢字に変換しなさい。「ショウテンが50周年を迎えた」】という問題を出されて「商店」と答える日本人はきっと少ないだろうと思います。50周年を迎えた長寿テレビ番組『笑点』の司会者が引退するにあたっては、「誰が次の司会者になるのか」の予想でにぎわっていたようです。
50年も続いた理由の一つは「変わらないこと」だと思います。構成も、出演者のキャラクターも、少しづつリニューアルはあるものの、大きな枠でとらえると変わらないものは、何となく見ていて安心するのですよね。時代劇の類もそういう理由で好かれているのだと思います。
さて、この『ストラング先生の謎解き講義』も、探偵ミステリーなのでドキドキわくわくするのですが、一方、ストラング先生が解決してくれるという「変わらない安心感」が感じられる作品です。別の作家の作品へのオマージュもあり、短い話の中だけで終わらない、広がりを感じることができる楽しい仕掛けもあります。
この短編集を読んでいて、大好きだったテレビドラマ『刑事コロンボ』が思い出されました。ちょうどアメリカで制作放映された時期と出版時期が同じころなので、「さえない主人公が難事件を解決する」というスタイルがアメリカで当時流行っていたか、もしくはどちらかの作者が他方の作品から影響を受けたのではないかなあと思いました。
話は最初に戻りますが、次なる司会者を予想できた人はきっと少なかったのではと思います。予想を裏切る司会者の起用は、50年目の大掛かりなリニューアルなのでしょうか?それとも、100周年に向けた「変わらないこと」を続けるための第一歩なのでしょうか?

2016年

5月

11日

福島原発の闇 原発下請け労働者の現実

 

『福島原発の闇 原発下請け労働者の現実』

 

 朝日新聞出版

 

「東日本大震災発生から5年」というコーナーに展示するために借りた本です。題名からして原発反対派の意見の本だろうなあということは推測できましたので、「ライブラリアンとしては原発賛成派の意見の本も展示しなくてはいけないなあと思いながら読み進めました。
最先端の技術を駆使した「原発」内で行われる不健康で過酷な労働を、誰が想像できたでありましょうか。そしてそれが外には出ないという事実の恐ろしさ、、、。
 ですが、これは「原発」だけの問題と言えないのではないのかなと思うのです。日本人の気質や文化・歴史的背景が生んだ社会全体の問題なのではと。
 ある人が「誰かが死ななきゃ変わらないのだよ」とおっしゃったのは、原発についてではありません。その方の職場についてです。そしてその職場は原発とは直接関係のない、未来ある子どもたちの育ちの現場です。
 その言葉を聞いたときは「何を大げさな」と笑ったのですが、『福島原発の闇』を読みながら、その言葉が思い出され、背筋がぞっとしました。
 著者が身を犠牲にしてまで書き上げた事実の記録と、その話を聞いて「まるで戦場のようだ」とつぶやき一気に書き上げたという水木しげるの絵で構成されたこの本、30年以上も前に書かれたものだと知って、またもや背筋がぞっとしました。

2016年

5月

06日

いいかげんに、生きる

 

『いいかげんに、生きる』

 

 心屋仁之助 著

今年のGWはある一つのテーマを追って複数の作品を一気に消化することとなりました。
その中で出会った本がこれです。
立ち読みをしているうちにある人にこの本を「カッテニカケハシ」したくなったからです。これだったら抵抗なく消化できるかなと思ったのです。サザエさんの「うっが、うっうっ」なんてもちろんありません。ごくんと飲み込む必要もなく、すっきりとしたのどごしすらもない。いや、飲み込むのではなくて点滴で、、、いえいえ、点滴だったら針を刺す時に痛みが生じますがそれもない。UFOに乗せられて知らないうちにチップを埋め込められたような、、、と、少々妄想暴走気味になってきたのでここらでおさえますが、、、私が欲していたものに、ぴたりと合致したのです。そして、この本を立ち読みしたのが、翌日でも、1時間前でもなくて、その日その時間その場所でなければ、その「ぴたり」がなかったように思えます。
 そんなに「ぴたり」ときたのに「カッテニカケハシ」はあえなく失敗でした。いくら勝手にとはいえ「カッテニカケハシ」は一応こちらの趣旨を理解してもらって、本を受け取ってもらい、その人が本を読まなくてもその本をもってもらって、写真を撮らせてもらって成功なのです。
 そう、受け取ってもらえてません。
 そんな辛い初恋の思い出のようなものも、買ったばかりの本についてしまいました。
一番印象的な部分は、、、「罪悪感」は、あくまで「罪悪、感」。勘違いだったりもする。、、、のところです。
ついでに他の作品の印象的な部分も紹介しましょう。作品名などはあえて明かしません。私と同テーマに関心を持っていらっしゃる方がいたら「ぴん!」とくるかもしれませんね。
DVD1、、、「悪いけど、彼女がいるんで。」
DVD2、、、「Hey,I'm not giving up on you.Look for a new angle.」
DVD3、、、「...hope is a good thing...maybe the best of things.And no good thing ever dies.Your friend Andy」
自主上映映画、、、「そうだと言っているのなら、それでいいじゃないですか。否定する必要がありますか?」
はてさて、自分らしくない衝動買いで買った本ですから、もしかすると明日には買ったことを後悔しているやもしれません。なので、ハートブレークの傷が生々しいうちに、文章にしてみました。

 

 

2016年

1月

31日

図書室のキリギリス

 

『図書室のキリギリス』

 竹内真 作

 双葉社

 

最近は「残留思念」という言葉がはやっているのでしょうか。残留思念を辿って主人公が事件の犯人を捜すというような話を、最近テレビドラマなどでよく観る気がします。

「残留思念」から私が真っ先に思い浮かべたのは、ガードレールの傍らに置かれた、すっかり枯れてしまった花束、、、交通事故の現場となったところなのでしょう。何かの本に「むやみやたらにそういうところで手を合わせると、そこに漂っている霊魂が取り憑くので、注意した方がいい」と書いてあるのを読んで、鳥肌が立ったことがあります。

この物語はそういう怖い話ではなくて、心温まる話なのでどうぞ安心してお読みください。

私は現在学校司書として小学校で働いているので、物語の舞台が高校とはいえ、「あるある」と共感できるところがたくさんありました。

読み聞かせのボランティアは「読書の種まき」といった人がいました。学校司書はその種に毎日水をまいたりする仕事かなと思っていたのですが,実際仕事をしていくと、少し違うかなと思ってきました。

「本を通して広がっていく世界」、、、そう、世界をどんどん広げていくのに、本がいつでも味方だよ、そしてその本でつながっている人たちも、みんなあなたの味方だよ、、、そんなことを子どもたちに知ってもらえるようにすることが学校司書の仕事のひとつでしょうか。

詩織と同様キリギリスな「なんちゃって学校司書」の私ですが、一応来年度も働けることが決まりました。同じ学校に勤務できるかはまだ分からないので、異動が決まった時にスムーズに引き継げるように、永田さんのように引き継ぎ書を作っておかなくてはいけませんが、どうにもそれは私の不得意分野でして、、、。

せめて「残留思念」ではなくて「残留仕事」を残さないようにしたいなあと思っています。

2015年

11月

03日

秘密。


『秘密。―私と私のあいだの十二話』

 

 メディアファクトリー

 2005年

 

♫え~めんで こ~いをし~て~♫

という歌、ご存知の方が多いかと思います。

シンガーソングライターの大瀧詠一が1980年代に歌った曲で、カネボウのCM

にも使われ、大ヒットしました。もちろんA面に収められたのですが、そのB面はというと♪さらばシベリア鉄道♪という渋めの曲となっていたそうです。

さて、物事いろいろな角度から見たり、表裏をひっくり返してみたり、光の当て方を変えたりすると、今まで気づかなかった思いがけないことに気付いたりするものです。

お話の世界にもそれは当然あって、この秋の「大人のおはなし会」では「ふたつ」と題して、そんな裏表のある話を取り混ぜながら、物語の世界へ大人を引き込もうとたくらみました。

そこで紹介する本を選定中に出会ったのがこの「秘密。」です。

「大人のおはなし会」のプログラムでは残念ながら紹介できないのでここで。

12人の有名どころの作家が、一つの舞台で繰り広げられる物語を、二つの角度から描いた短編集です。

私が中でも一番好きだなあと思ったのは、小川洋子の「電話アーティストの甥」と「電話アーティストの恋人」です。懐かしの黒電話が味のある小道具として登場します。

偶然でしょうが、堀江敏幸も黒電話を扱った物語を書いています。

皆さん、廊下に黒電話を引っ張っていって、家族に秘密の相手に電話を掛けた世代でしょうか。

…と、ここまで書いてはたと思ったのですが…今や「A面」「B面」は死語?

2015年

9月

22日

カラフル


「カラフル」

 森絵都 作

 文藝春秋


小学校の図工でのこと。白い花瓶の下書きを終えて、水彩絵の具で色を付けようとしていると、先生が「白いものに影を付けるときは青でつけるのよ。」と教えてくれました。ちょいちょいちょいと白い画面に薄い青を筆で載せていくと、あら不思議、白い花瓶の表面の凸凹が、本物そっくりに浮き上がってきました。「へえ~すごいなあ。白のときは青か」と感心した思い出があります。けれど、今思い返してみると、あの時私は確か大好きなアジサイが描きたかったんだよなあ、、、花瓶はどうでもよかったんだよ、と。花瓶の絵は思い出せますが、肝心のアジサイは、どう描いたのか全く思い出せません。そして、なんだか「白のときは青」という方程式みたいなものを教えられてしまったときから、絵をかくのが嫌いになってしまったように思えるのです。決めつけてしまうと、そこで止まってしまうんですよね。

2015年

7月

12日

はてしない物語


「はてしない物語」


ミヒャエル・エンデ作


 私が初めて自分で「観たいなあ」と思った映画は「E.T.」でした。ところがちょっとした願掛けをして、その願いがかなったら観に行くということにしていたら、願いは成就したのですが、そのころには世間も私もすっかり「E.T.」熱は冷めてしまっていて、結局観ないで終わってしまいました。

 テレビなどで有名な場面やパロディなどを観る機会が多かったので、何となくは知っているのですが、結局どういう映画なのかは実のところ知りません。

 映画通でもないので、そんな映画が結構たくさんあります。♪スト~リ~ はああ~ あああ~ あああ~♫という曲とともに、竜が空を舞う映像がくっきりと脳裏に焼き付いている「ネバーエンディングストーリー」もその一つです。

 エンデの「はてしない物語」が原作だったとは、読んでいる途中で知りました。

 エンデは相当のこだわりやだったらしく、挿絵や装丁など、色々と注文が多かったらしいですが、映画の製作に関しても、当然もめて、裁判沙汰にまで発展したそうです。

 もしも、今エンデが生きていて、「はてしない物語」を電子書籍に…なんて話が持ち上がったら、どうなっていたのでしょうか。

 私は「あかがね色の表紙」に興味があり、図書館から借りてきたのですが、フィルムコートがかかっており、さらには私の最近の読書スタイルは通勤の電車の中でなので、あまりの重さに耐えかねて、途中文庫本に変えてしまったので、エンデの作品を正規に楽しんだとは言えないなあと思いました

2015年

7月

12日

東慶寺花だより


「東慶寺花だより」

 井上ひさし 作

 

時代小説でもあり、ちょっとした推理小説要素もあり、とても楽しく読める本です。

井上ひさしの作品をいろいろときちんと読みたくなりました。

それぞれの章の始めの3行ほどに、季節の移ろいを描いた文章があるのですが、それがまたいいのです。

この小説を読む前に、友人たちと東慶寺を訪れたのですが、アジサイのトップシーズンを迎える前だったためか、それほど人出もなく、こじんまりとした庭が心地よく、何度でも訪れたいと思わせる素敵なお寺でした。

かつて駆け込み寺であったと聞いていたので、なんだか重々しい空気が漂う古寺を連想していたのですが…。

小説のほうも,滑稽本作者兼見習い医師の信次郎さん目線でのんびりと構えた感じで書かれているので、さわやかで明るい物語です。

お美代ちゃんとのその後が気になるところですが、余韻を残してあれこれ推測できる物語って楽しいですよね。

東慶寺を訪れたわけは…あれこれ推測できるように、秘密にでもしておきましょうか。

2015年

5月

22日

かいじゅうたちのいるところ


「かいじゅうたちのいるところ」

 デイヴ・エガーズ

 河出書房新社

 

 仕事で絵本「かいじゅうたちのいるところ」(センダック)が必要になり、図書館で予約をしたのが間違ってこの本でした。

 「しまったあ」と思ったのですが、せっかく借りたので読んでみようと消極的に読み始め、これが意外に面白かったのです。

 センダックの絵本とスパイク・ジョーンズと著者による映画の脚本とが根底にあるのですが、小説ならではの世界観があるようです。

 今まで原作のある映画を観ると、まずは原作より面白いとかつまらないとか考えていたのですが、それぞれ作品としては別物で、比べて論じるのは見当違いのことなんだなあと思えてきました。

 私は映画版を観ていないのですが,機会があれば鑑賞してみたいと思います。

 翻訳もいいのだと思いますし、脚本をもとにしているだけあって、すべての場面でイメージが鮮明に思い浮かびます。

 私が特に「いかにもアメリカ映画」っぽくて好きな場面は、冒頭部分で主人公が友達の家を訪ねるところです。「やるなら今日、イエス!」と書いてあるTシャツを着ている友達のママの後ろには、エクササイズビデオが一時停止になっていて、画面の中では筋肉モリモリの女の人が画面のずっと外にある何かを必死にとろうとしている、、、という描写は、物語には関係ありそうで関係なくて、実は関係あるのかも。

 そこまでは深く読めていませんが、ばかばかしくて笑えるところが好きなのです。

2015年

2月

02日

妖怪一家九十九さん


「妖怪一家九十九さん」

 

 富安陽子 作

 

明日の節分を迎えるにあたって、とうとう恵方巻やら福豆のパッケージにまで登場するほど、今日日、子供たちには大人気の「妖怪ウオッチ」ですが、そのベースとなっているのは昔から伝わる妖怪だということを、子供たちは知っているのでしょうか。

かくいう私も、「オクリオオカミ」が妖怪だとは知りませんでした。

「磁場猫」も妖怪の一種でしょうか。水木しげるの妖怪図鑑で調べてみようと思います。

(おそらく「でるけんでられんけん」の元となっている)「でんでらりゅうばでてくるばってん」の「でんでらりゅう」は「でんでら竜」という妖怪だと思っていました。

最後のほうの人間のセリフ、、、奥が深いです。妖怪の世界も奥が深いです。

2015年

1月

30日

ローワンと魔法の地図


「ローワンと魔法の地図」


 エミリー・ロッダ 作

 さくま ゆみこ 訳

 あすなろ書房


カタカナが苦手なので、どうしても外国文学は敬遠しがちです。「あの物語おもしろいよね」と友人と話している途中で、自分が主人公の名前を間違って読んでいることに気付くことがよくあります。

しかし、カタカナのことはあまり気にならず、一気に読めたのは、それだけ面白い物語だったというのもあるでしょうが、それ以上に翻訳家の力もあるのだと思います。

特に、この物語のキーワードは謎めいた言葉で綴られた「詞」です。

ペンネームが自身の祖母のものだったり、娘に語っておはなししたものがもとになっているなどのエピソードも気に入りました。

そういえば、物語に出てくるキーワードが私のニックネームのひとつと同じでもあるので、なんでもつながりを持たせたくなるホンノハシとしては、ここにご縁を感じぜずにはいられません。

全5巻出ているようで、続きを読むのが楽しみです。

2014年

11月

30日

横浜黄金町パフィー通り

「横浜黄金町パフィー通り」

 阿川大樹

 徳間書店


黄金町は10年ほど前まで、行ってはいけない危ない街だったらしいのですが、その危ない時代を私は知りません。

でも、今黄金町へ行くと、その危ない時代の痕跡がまだ残っているので、容易に想像できます。

そして、そんな黄金町を訪れるたびに「危なっかしい街だなあ」と感じます。それは、黄金町一帯が,どうも「街」と言うよりも、一つの建築物のように思えてならないからです。

その中に入るモノによって、いくらでもイメージは変わるし、そのなかに入るモノは、必ずしも「そこになくてはならないもの」ではないし、古びたら、飽きてしまったら、時代が変わったらいつでも取り壊してしまえると言う危うさです。

黄金町はアートを入れ込んで町おこしをはかろうとしていますが、単なるギャラリーとしての街ではなく、もっと農業的な「土壌」としての街をつくるべきではないかなあと思います。

この小説、女子高校生の視点から描かれているのですが、今まで黄金町に何度も訪れた事があるものの、一度も高校生に出会った事がありません。時々、「これってノンフィクションでは?」と思う箇所があるのですが,視点が女子高校生と言う点で、ぎりぎりフィクションのラインを守っているような気がします。そしてまた、これは黄金町の住民でもある作者の優しい心遣いだと感じます。

若者の間でドラマや小説の「聖地巡礼」なる行動が流行っているそうなので、この小説を読んで、黄金町に訪れる人が増えると良いなあと思います。


2014年

10月

05日

TUGUMI

「TUGUMI」

 吉本ばなな

 中央公論社

 

ある図書館で,「よしもとばななの小説をテーマにビブリオバトルがある」と友人が教えてくれたので,面白そうだから出場してみようかなと思い,ちょうど手元にあった「TUGUMI」を再読しました。

「キッチン」の台所で毛布にくるまって眠っている主人公のイメージは,とても印象的に頭に残っていて,私も「台所で寝ようかな」なんて考える時もあることだし,まずは「キッチン」を再読しようと試みたのですが,イケメンの登場でなぜか躊躇してしまい,読み進めることができませんでした。

その次に手に取ったのが「TUGUMI」…よしもとばなな(正確に言うと吉本ばなな時代の作品ですが)は純文学者だなあとつくづく思いました。表現の一つ一つがとても美しく,ビューポイントがたくさんあって,そこかしこでシャッターを切りたくなるような気がします。

山本容子による装丁デザインも女子の心をくすぐります。

初めて読んだのはちょうど私が主な登場人物たちと同じ年ごろだったためか,物語に共感し感動したのですが,おばさんになってしまった私は素直に物語に入っていくことができなくて,そんな自分にがっかりしました。

まっすぐで生き生きとしている登場人物やそれを素直に受け入れることのできた当時の自分に嫉妬してしまったようです。ひねくれ者のおばさんはたちが悪いですね。ビブリオバトル出場はあきらめました。

姪っ子が当時の私と同じお年ごろなので,「カッテニカケハシ」してみたいなとおもいます。携帯電話がまだ普及していなかった頃の物語に,はたして彼女は共感するのでしょうか?

2014年

9月

28日

逝かない身体

「逝かない身体」

 

 川口有美子 著

 医学書院

 

何年か前,金沢から飛行機に乗って東京へ向かう時,シートのリクライニングがうまくいかなかった時のことを思い出しました。頭をぐぐっと自分で押し込むようにすれば簡単に角度調整ができるはずなのですが,シートの大きさが私には少し大きすぎて,うまく力が加わらず,仕方なくキャビンアテンダントの助けを借りました。笑顔のCAの「これでよろしいですか」との問いに「有り難う」とやはり笑顔で答えた私ですが,心の中では「しょうがない。ほんのちょっとのフライト時間だもの,我慢しよう」と思っていました。

僅か1ミリの体の起き場所について,わずかに動く瞼や唇を駆使して,他人に自分の訴えを伝達していく…それは何か特別なことのように読み始めの時は感じていましたが,それは快適な生活を送るために食べる物や着るものを日々選びとって行く日常と,何ら変わりはないことなのだなあと思いました。

ほんの少しですが,訪問介護の現場に職を得ていた時があります。事あるごとに「利用者さんの気持ちになって,利用者主体の介護を」といわれていましたが,その時の言葉は,何と薄っぺらなものだったか。

この本を読み終わってから,介護の仕事に対する意識が少しですが変化した気がします。

「…末期の看病と,そこにたしかに存在する希望とを私は描いてみたかった…」というあとがきが印象的でした。

 

 

2014年

9月

20日

一瞬の風になれ

 

「一瞬の風になれ」

 佐藤多佳子 著

 講談社

 

うわ,もう爽やかで青春全開…一気に読んでしまいました。

そして,走りたくなります,トラックを。

走るの嫌い,遅い,陸部出身でもない私でもこんななのですから,陸上部出身の人が読んだら,血が騒いで,いてもたってもいられなくなると思います。

神奈川の地名などもちらほら出てくるので,非常に親近感もわきます。

そう言えば,この小説を読み始める少し前に,淵野辺公園に行ってきました。

蒸気機関車が展示してあって,なかなか面白い公園でしたよ。

近々淵野辺のカフェで「ホンバタカイギ」も開催予定なので,つながりを感じずにはいられません。

漫画化,テレビドラマ化もされていたようですね。

大塚先生を演じたのが山下真司ってところでププッと笑った方は,私と同じスクールウォーズを一生懸命観ていた世代ですね,きっと。

 

 

2014年

7月

23日

「希望」という名の船にのって

 

「『希望』という名の船にのって」

 

 森下一仁

 

なつこん(SF大会)へ行くつくばエキスプレスの中で読了です。海外旅行の行きの機内で地球の歩き方を読むような,テスト当日の電車内で教科書を一通り読んでおくような,そんな気軽さで読み始めたのですが,いつの間にか引き込まれました。

読み終わった後は,爽やかなすっきり感…あれれ?でもなんだかおかしい。

SF小説は落ちるところに落ちないのがいいところだということに最近になって気付いたのですが,これはスキっと落ちて,しかもわかりやすいハッピーエンドではありませんか。

それもそのはず。大人向けのSFを子供向けにリライトされたものだったからです。

どうやらラストがちょっと違うらしいのですが,それっていいの~?

その後,なつこんで急きょ参加したビブリオバトルでも、SFのリライト版を紹介した人が,「元のとてもいいシーンが,子供向けに書かれたために,かえって脈略のない不可解なシーンになってしまっているのが残念」と嘆いていらっしゃいました。

私はなつこんで「子供達にSF本を」というイベントに参加したのですが,無理やり文字面を読ませようとすると,本当のSFの良さは伝わらなくなるという矛盾に,今さらながらはっきりと認識したのです。

初SFは「隠れてこそこそ読んだ,親や年の離れた兄弟の本棚で出会った本」なんていう人たちが,真のSFファンに成長するのかもしれないなあと思いました。

 

2014年

7月

15日

こんや円盤がやってくる

 

「こんや円盤がやってくる」

  福島 正実 著

  岩崎書店

 

本日の打ち合わせ(仕事ではありません)を,例えるならば…

 

宇宙人が地球征服をするために,手初めに潜入を試みようとしている,とある団体の小規模施設にかかわっているという理由で選ばれた私は,準備,偵察を行うためのチップを埋め込まれた…

と,言ったところでしょうか。

 

そして,今度の土曜日,例えるならば…

私は今日出会った宇宙人に,「19日の13時に裏山に登るように」と言われた。どうやら円盤に乗せてくれるらしい…

と,言ったところでしょうか。

 

どんなのぞみを かなえてくれるのかな?

 

ところで,今どきの子供は「円盤」と聞くと何を思い浮かべるのでしょうね。

2014年

6月

25日

モモ

 

「モモ」

 ミヒャエル・エンデ 作

 岩波書店

 

 「モモ」と言えば不朽の名作ですから,題名だけでもご存知の方は多いはずです。私も,もちろん知っていました。と言いますか,小学生のころ読んだ記憶があります。ですが,全く内容についての記憶がありません。

 読み始めても,途中で投げ出してしまったのか,もしくは心の何処にも引っかからなかったのか…ですから,もう一度読もうと思ってはいたものの,なかなか手が伸びませんでした。

 ところが,先日参加したビブリオバトルで,ほかのバトラーさんが紹介しているのを聞いて,読まずにはいられなくなったのです。

 そして読んでみて…何度も読み返したくなるというそのバトラーさんの言うことが納得できました。

 セリフのひとつひとつの深いこと!

 きっと小学生だった私は,時間になんて追われたことがなく,毎日ボーっと過ごしていたんだろうなと思います。

 

2014年

6月

22日

べんとうべんたろう


「べんとうべんたろう」

 

 中川ひろたか 文

 酒井 絹恵 絵

 偕成社

 

愛する人のために美味しい弁当を作るぞと,一念発起したべんたろう。

ご飯や卵焼きに対するこだわりはかなりのものです。

ですが,そこでエネルギーを使い果たしてしまったのでしょうか?

後半はできあいのモノを,しかもライバル(?)が作ったものをあれもこれも入れて,愛情たっぷり(?)弁当を完成させます。

最後は「あ~ん」なんて愛する人に食べさせてもらっちゃって,ちゃっかりしてます。

ダジャレ満載の楽しい絵本です。

読み終わった私は,「よし,私もおいしい弁当を作るぞ!」…とはならず,この夏はA1に挑戦するぞと決意したのでした。

 

2014年

6月

18日

ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎


「ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎」

 

堀井憲一郎 著

文藝春秋

 

調べ物と言えば,インターネットで簡単に何でも検索できますが,この方は自分の足,手,目を使って調査をします。もちろん,アルバイトさんの協力もあってですが。

アンケートなどという安易な方法も極力とらず,対面式で話を聞いていく「インタビュー方式」をとるので,莫大な時間を使っています。

しかも,その謎が,解けたからと言ってどうでもよいものばかりというのがまたいいではないですか。

他人の暗証番号が,どういう経緯で決まったかがわかったからと言って,「へえ~それで?」ですよね。

そう言う,肩の力が入っていそうで入っていないところがとても魅力的です。

どうでもいいことだけれども,調査方法は至って真面目です。

調べ物学習で,パソコンを使って検索して,プリントアウトして,はい終わり…の今どきの小学生に読んでもらいたいです。読めないか。じゃあ,せめて先生に。

図書館にキッチンスケールを持ちこんでの調査…アルバイトとして参加したかったなあ。

 

 

2014年

6月

08日

雨ふる本屋


「雨ふる本屋」

 

 日向理恵子 作

 

先週末から梅雨入りしまして,家の外も中もじめじめしております。

だからって,読む本まで雨の話にすることもないかもしれませんが…。

子供向けのファンタジー小説なので,それほど感動とかは正直言ってしませんでしたが,言葉遣いが面白いなと思いました。

ちょっと古くさい言い回しとか,あまり子供は使わないような言葉が出てくるのです。

この作者が,もう少し大人も子供も楽しめる児童書を意識して物語を描いてくれると,とても面白い小説になるのではないかなあと思いました。

私は,冒頭の,雨ふる本屋までの道のりが一番好きです。

2014年

5月

25日

宇宙からきたかんづめ


「宇宙からきたかんづめ」

 

 佐藤さとる 作

 

最近,SF小説好きの方とお話しをする機会があり,SF小説の魅力を再認識しました。それでも,「科学的理論に基づく小説」は,理系脳を持ち合わせていない私にとっては,まだまだ難しく,面白そうな小説をいくつか紹介してもらってはいるのですが,なかなか手が出ていませんでした。

そんな時,図書館の児童書の棚で見つけたSF小説がこれです。

SFの面白さに,ぐぐっとひきこんでくれます。

そして,あとがきには作者が「児童書」と「SF小説」の釣り合いをもたせる難しさを書いています。

そういえば,子どもの時はSF小説をあまり難しいと感じた記憶がありません。それよりも「少し不思議」な世界にみるみる引き込まれていったものです。それは,児童向けに書きかえる段階で,SF小説としての「理屈っぽさ」が無くなってしまい,SF小説としては意味合いの薄いものになってしまったモノを読んだからなのかもしれませんが,「面白い」と感じたことは確かです。

前出のSF好きの方,学校図書館にSF小説を寄贈する活動をしているそうです。

「宇宙からきたかんづめ」のように,「児童書」と「SF小説」のバランスを絶妙に保っている,魅力的な本がたくさんある学校図書館っていいなあと思います。

 

 

2014年

3月

13日

かさぶたってどんなぶた

「かさぶたってどんなぶた」
 小池昌代 編

 スズキコ―ジ 画

 

東海道線の下り電車に乗る機会が多い今日この頃,この本に収録してある一編「あけがたには」が,必ず頭に思い浮かびます。

先日は藤沢を訪れ,今度は茅ヶ崎へ行く予定です。戸塚にはこれからしばしば足を運ぶことになりそうですし,年に一度ぐらいは小田原まで足をのばしたいところです。

車内で朗読したら面白そうなので,どんな読み方がよいか,あれこれ妄想します。

「お経」をお堂で朗読も妄想してます。

 

2014年

2月

19日

フリーター、家を買う。


「フリーター,家を買う」

 有川浩 作

 幻冬舎文庫

 

現在求職中なので,私にとっては旬の小説でした。

求職中といっても,無職ではありません。一応主婦の肩書があります。

でも,「主婦です」と胸を張って言えるほどのことはしていません。

主婦にもプロとかアマとかあればいいのになあなんて考えます。

でも,プロだから仕事がきっちりしているとか,アマだからいい加減でいいというわけでもありません。

いっそ家政婦と割り切って,徹底的に働いてみるか…なんてことを考えてみたり。

一生懸命スーパーのチラシを見て,特売のモノを買ったけど,総額で130円のお得…ということは今日の私の賃金は130円?…いやいや,主婦は24時間営業だから,最低賃金×24時間で…。

こんなことをまとめたら,本が一冊書けそう!…でもそれを読みそうな主婦は,こんな夢のない話にお金は払わないから売れないね…。

しょうもないことばかり考えてしまいます。

そうだ,献血にでも行ってくるか!…と突拍子もないところに着地し,今日のところは考えるのは終わりにして,「蛍の光」を流そうと思います。

2014年

2月

15日

アルジャーノンに花束を

 

「アルジャーノンに花束を」

 ダニエル・キイス

 早川書房

 

友人から勧められて読みました。友人からは「好きだけど辛くなるので読み返せない本」と聞いていたので,最後まで読み終われるか心配だったのですが,辛いというよりも「最後どうなる」という興味で,一気に読んでしまいました。その友人と違う本を読んだ後にも感想を言い合って感じたのですが,私は彼女に比べるとかなりの鈍感のようです。
さて,星新一の小説に出てくるような悪魔が「キミに知脳か愛情を与えたり受け入れる能力のどちらか一つだけをたっぷりと授けてあげよう」と言われたら,私は間違いなく「知能」を選ぶだろうなあと思います。
「知能」の方が確かで,持っているという手ごたえがあって,周りの人に左右されることない物のように思えるからです。
たとえ,その代償にすべての「愛情」を奪われてしまったとしても…です。
「愛情」は相手あってのもので,それが最高の能力だといわれても,相手の人間によっては「本当にそうだろうか」と常に不安に感じてしまいそうだからです。
読み終わった後に,映画「BIG」を思い出しました。双方の作者が言わんとしていることは,実は共通点がたくさんありそうに思えます。同じならば,やはり楽しい話の方がいいなあ…と辛いことからは目をつぶって逃げがちな私は,またもや逃げ腰になってしまうのでした。
でも,私は自分からは逃げませんよ。

2014年

1月

24日

まあちゃんのながいかみ


「まあちゃんのながいかみ」

 たかどのほうこ さく

 福音館書店

 

今年の新年会は友達の家に4人で集まって,おしゃべりしたり,おいしいものをたべたり,楽しく過ごしました。みんなの気になることはお肌のこと,髪のこと。女子力高い友人たちは,いろいろ試してみたりして,お手入れに余念がないようです。私はというと…洗顔は普通の石鹸だし,そういえば久しく美容院にも行っていない…女子力皆無です。みんなの話を「ほ~なるほど,そうなんだあ」と感心して聞きいるばかりでした。

さて,この絵本もジュースとお菓子を前にみいちゃん,はあちゃん,まあちゃんの3人が集まった,女子会での話。

女子力全開のみいちゃんとはあちゃんを,まあちゃんは想像の世界に引き込んで,最後には二人をうっとりさせてしまいます。

私も,次回の女子会では,みんなを楽しませるような話ができるように,まあちゃんを見習いたいと思います。

まずはまあちゃんに真似て,おかっぱ頭にしようかしら。

 

2013年

12月

26日

博士の愛した数式


「博士の愛した数式」

 小川洋子 著

 新潮社

 

 今回で読むのは2度目です。以前の一行読後感想には「面白かったけどナゾが多い」と書いてありましたが,記憶には「数式を物語に面白くからめたもの」という印象が残っていました。

 ですが,今回は人と人とのかかわりのほうが気にかかり,現在の私とお年寄りの関わりについて考えさせられることとなりました。

 一度目に読んだときは,訪問介護ヘルパーの職に就いている時で,利用者さんとの関わりについては,もちろんマニュアルが存在し,しかもお客様とサービス提供者という人間関係がはっきりしていたのですが,ここ最近関わりのあるデイサービスの利用者さんとは,マニュアルも,はっきりした人間関係の相関図を示してくれる会社もボスもいません。

 なので,当然のことなのですが,「人と人」としてのお付き合いとなるのです。シンプルであるがゆえに難しいことです。

 まずはあいさつ,身だしなみ…せっかくの機会を丁寧に重ねていきたいと思いました。

 それにしても,登場人物の一人「ルート」はどうしてあの場面でひどく怒ったのかが2回読んでもわかりません。これは3回読んで読書座談会に持ち込むべきではと思っています。

 

 

2013年

11月

28日

和菓子のアン


「和菓子のアン」

 坂木司 作

 

和菓子の餡は洋菓子で言うと生クリームでしょうか,それともチョコレートでしょうか。

そんなことはさておき,殺人事件が起こる小説がミステリーだと思っていましたが,これもある種のミステリーで,和菓子の歴史やネーミングの由来などで買い求めるお客さんの行動を謎といていくところが面白いと思いました。

先日バザーに出された古着に値札をつけるお手伝いをしたのですが,その作業もミステリーにあふれていましたよ。一体どうしてこの新品の服が大量に出されているのかとか,この服,一体どういうシチュエーションで着ようと思ったのかとか…。

さて,この小説を読むと当然のようにデパ地下で和菓子を買いたくなるのですが,デパ地下の上生和菓子たちはプラスチックの入れ物に窮屈そうに入れられていて,あまり買いたくなるようなものはありませんでした。

近所の和菓子屋さんに,久しぶりに季節の上生菓子を注文したいですねえ。少々値が張るので,何か理由がほしいところです。

2013年

11月

12日

父の縁側,私の書斎

「父の縁側,私の書斎」

 壇ふみ 著

 新潮社文庫

 

 壇ふみといえばNHKの連想ゲームでクールに正解を当てる人とのイメージが強いのですが,本業は女優さんでエッセイストでも有名なお方なのですね。

 私は最近縁側とコミュニケーションの関係に興味を持っているので,題名を見てすぐに「ああ読んでみたいなあ」と思いました。

 この本,実は,先日私が参戦したビブリオバトルの後に開催された,首都決戦の地区予選会で紹介されたものです。

 バトラーさんは縁側にとても憧れていて,この本に描かれている家族とか家がとても良いなあと感じているそうですが,今の自分の家は好きではないそうです。なぜ好きでないのだろう…と本の中身よりもそちらのほうが気になってしまいました。

 著者も縁側は大切であると本書の中で述べています。

 私が別荘を建てるとしたら,断然目玉は「縁側」です。あっ,「庇」も…そうそう「囲炉裏」も…「土間」も欲しい…。目玉が多すぎますね。

 余談ですが前述の学生バトラーさんが本の一節を読んでくれたのですが,よく通る声で心地よかったので,機会があったら絵本の読み聞かせや素話などに挑戦してみてもらいたいなあと思いました。

2013年

11月

07日

逃れの森の美女


「逃れの森の魔女」

 ドナ・ジョー・ナポリ 著

 金原瑞人・久慈美貴 共訳

 

 「新聞広告クリエーティブコンテスト」というのがありまして,2013年のテーマは「しあわせ」。そして,最優秀賞を獲得した作品は桃太郎に父親を殺されたという鬼の子を描いた「めでたし,めでたし?」でした。当たり前のことが視点を変えることによって,全く別のものに姿を変えるという,考えさせられる作品です。

 さて,この小説も多くの人が知っている童話の魔女を主人公にした作品です。なぜ,魔女は森にいたのか…あたり前と思っていたことを視点を変えて考えていくと,一方的に悪者だった魔女の,哀しい物語となります。

 基の物語の主人公は後半になってやっと出てきます。

 原作の題名は「The Magic Circle」,直訳すると「魔方陣」といったところでしょうか。邦題は「逃れの森の魔女」。確かにこのほうが日本人受けは良いように思います。だって「眠れる森の美女」と似ていますからね。ただし,「眠れる森の美女」のパロディーではありません。

 森に魔女の家がある,あのお話です。

 

 

2013年

11月

07日

かかし

 
「かかし」

ロバート・ウェストール 著

金原瑞人 訳

 

 ホラー映画を観終えたような余韻を感じました。故・淀川長治さんが太い眉毛を上下させながら「怖いですねえ,恐ろしいですねえ」という声が聞こえそうです。

 どんどん追い詰められていく少年の心理描写が素晴らしいと思いました。自分で自分の首を絞めていくのです。苦しい息遣いが聞こえてきそうです。

 私はあまり外国小説を読まないのですが,金原瑞人さんの翻訳はすーっと入ってくるので,最近手に取るようになりました。

 本当は原文で読めればいいのですけどね。

 

 

 

2013年

11月

03日

くちぶえ番長

 

「くちぶえ番長」

 重松清 作

 新潮文庫

 

「くちぶえ番長」の文字を見て,真っ先に思い出したのが,私が小学生のころ放映されていたNHK教育テレビの道徳ドラマのテーマソング…♪くちぶえふ~いて~ 空地へ行った~ 知らない子~が やってきて~ 遊ばないかと笑って言った~♪…という歌です。
物語がやや「道徳的」なところが気になるものの,それは雑誌「小学4年生」に連載されていたからと聞けばうなずけます。
それでも随所に仕込まれた「重松節」により,胸がキュンとなって,目がウルウルしてしまいました。
重松氏も,あの道徳ドラマ,観ていたのかしら。
それからもう一つ,くちぶえと言えば最近テレビで「くちぶえ」を朗々と奏でる高校生を観ました。
すごいですねえ。くちぶえさえ吹ければ,どこに行っても音楽を奏でることができるのですから。おまけに飛行機に乗るときも楽器分のチケットを買わなくても済むし。
歌を歌える人も良いですよね。人間の体は楽器に勝ると思います。
確か,モンゴル辺りでは,同時に2音をだす歌い方があると聞いたことがあります。
私は,口笛吹けません。ウィンクもできないし,指も鳴らせません。
その分どこかで補っているのでしょうか。

2013年

10月

18日

Ex-formation 皺

 

「Ex-formation 皺」

 原研哉ゼミ 著
 中央公論新社

 

 よく,小学生や中学生のころ,「わからないのが問題ではない。わからないのがわかっていないのが問題なのです」という先生がいました。その時はその言葉の意味自体が「わからない」のでしたが…。
 武蔵野美術大学基礎デザイン学科・原ゼミで2004年度から研究が重ねられているこの「Ex-formation」とは,「わかっている」と思っているモノまで「わかっていない」ことを「わからせる」ことです。
 なんだか訳がわからなくなってきますが,学生達のプレゼンテーションをまとめたこの本を読めば,なんとなく「わかってくる」はずです。
 とにかく,視点の持ちようが様々でおもしろいのです。
 中でも私が一番好きなのは「しわ工場」の研究です。
 「しわ工場」は,たいていの家庭にあるもので,私はほぼ毎日この「しわ工場」を稼働させているのでとても身近に感じられます。
 このゼミの公開講座が毎年あるようなので,来年こそは参加したいと思っています。

2013年

9月

30日

クレイジー・ジャック


「クレイジー・ジャック」

 ドナ・ジョー・ナポリ

 金原瑞人・小林みき 訳

 

「ジャックと豆の木」のパロディ小説です。細やかな心理描写と,独自に意味付けした小道具の使い方で,現代社会の大人向けの小説になっています。

生活に欠かせないものは,一般的には衣食住ですが,自分自身の欠かせないもの,それは一体何なのだろうと考えさせられます。

そして,それを求めるために「賭け」に出るべきなのかどうなのか…。

クレイジー・ジャックに倣うのであれば,賭けは3回まで。私はおそらくすでに一回の賭けは済んでしまっています。

残り2回の賭けをするべきかどうなのか。

自分にとって欠かせないものがはっきりわかれば,迷わず賭けに出るつもりです。

2013年

9月

09日

日本の昔話


「日本の昔話」

 柳田国男 著

 角川ソフィア文庫

 

世界一短い手紙はビクトル・ユーゴーと出版社との間で交わされた「?」「!」というやりとりであるというのは有名な話ですが,それに負けずとも劣らないのが「木のまた手紙と黒手紙」の話に出てくる手紙のやり取りです。

題名そのものの手紙なのですが…想像してから読んでみてください。

日本の昔話といっても,グリム童話に似たような話があったり,地域によって同じ話の出だしでも落ちが違っていたり,おはなしの世界はいろいろな角度からみると本当に面白いです。

この本を一冊持っていれば話題に事欠かないような気がします。

シリーズには「日本の伝説」「桃太郎の誕生」「山の人生」「日本の祭り」「毎日の言葉」など,興味深いものがたくさんあるようです。

挿絵もなくて地味な本なのですが,噛めば噛むほど味が出ること間違いなしですよ。

2013年

9月

09日

おんぶにだっこ


「おんぶにだっこ」

 さくらももこ 著

 小学館

 

このエッセイは著者が2~3歳の頃の記憶をたどって書かれたものが中心です。

たいていの人はこのころの記憶はあまりないといわれているので,それを言葉にして大人になってから表現できるというのは貴重なことだと思います。

どうかするとこのころの子供は,胎内の記憶を持っているといいますから。

そういえば,先日友人とこの胎内の記憶が話に上りました。彼女には2歳前のお子さんがいるので,胎内の記憶を聞いてみたいのだけど,言葉がなかなか出ないので早く聞いてみたいなあとのことでした。

彼女は幼児時代,非常に感受性の強い子供だったそうです。きっとさくらももこのように,幼年期の思い出を鮮明に心にとどめているのではと思います。

彼女のお子さんの胎内の記憶も気になりますが,彼女自身の幼年時代の記憶も,非常に興味があります。

子育てで奮闘している彼女に,ぜひこの「おんぶにだっこ」を読んでほしいと思います。機会があったら「カッテニカケハシ」で本を届けたいと思います。

 

 

2013年

9月

05日

塩の街


「塩の街」

 有川浩 作

 角川文庫

 

これが有川氏のデビュー作だそうです。

家族に「おもしろいよ」と薦められて読みました。

ライトノベルらしい読みやすく面白い物語で,一気に読みました。

有川氏は戦闘オタクなのでしょうか?もしくは自衛隊マニア?

彼女の書く小説が押しも押されぬ人気であるということは,平和主義の日本が変わりつつあるから故のような気がします。

「憲法改正」と聞いてもいまいちピンとこなかったのですが,人気小説を読んで,時代の風を肌に感じ身震いしてしまいました。

私はとかく怖いことには目をつぶって避けて通る傾向にあるのですが,そうは言っていられません。

おはなし会などでも積極的に「戦争は恐ろしいものである」ということと「平和というものは当たり前にあるものではなくて,意識して守らなくてはいけないものなのだ」ということを訴えていかなくてはいけない時期に来ているのかもしれません。

2013年

8月

19日

リリース


「リリース」

 草野たき 作

 ポプラ社

 

母さん格好良すぎます。

まあでもいいでしょう,フィクションなんですから。

 

ところで私は中学,高校とバスケ部に所属していたのですが,高校2年の夏合宿を前に部活をやめてしまいました。

やめた理由は色々とあるのですが,バスケは楽しかったなあと思うと,やめなければよかったのかなあと思うのです。

今だにバスケをやっている夢を見ます。

それも,3年間続けた中学校のバスケではなく,1年とちょっとしか続けられなかった高校でのバスケなのです。

夢に見るほど練習が厳しかったのだと,この本を読むまでは思っていましたが,もしかするとそれだけではないのかもしれないなあと,今は感じています。

 

 

 

2013年

8月

18日

ひとりずもう


「ひとりずもう」

 

 さくらももこ 絵と文

 小学館

 

作者が青春真っただ中,まだ,将来も定まらない時の悶々とした日々が綴られています。

それを「ひとりずもう」とは…さすが,うまい!

他のエッセイに比べてテンポがやや悪いのは,そんな作者の心の迷いがよくあらわれているからこそだと思います。

そして,最後の最後で急にテンポアップ。

一体どうなるのか,読む速度も増していきます。

「あとがき」も「付録のこと」も,隅から隅までじっくり読んでください。

 

2013年

8月

18日

「うちの子もしかして反抗期?」と思ったら読む本

 

「『うちの子もしかして反抗期?』と思ったら読む本」

 

 主婦の友社

 

説明するまでもなく,「もしかして」どころか「誰がどう見ても」なので読みました。

こういう本に書いてあることは,結局は理想なので「現実はそうはいかないんだよ」と思うことは多々あるのですが,読み終わった後は,現実の状況を「おもしろい」と笑い飛ばすほどの余裕ができますよ。

ただし,難しいお年頃の子どもを前に笑い飛ばすと,ガラスの十代のハートを傷つけてしまいますから,一人の時に思い出してこっそり「ぷぷっ」と笑う程度にしておきましょうね。

ところで,日本では「誰もが必ず通る道」とか「成長には欠かせない」などと言われているこの「反抗期」ですが,スペインにはないそうですよ。もしかすると日本特有のものなのでは…?

もしかすると日本人にしか通用しないこの「反抗期」神話も研究してみると面白そうですね。

2013年

8月

09日

ブランケット・キャッツ


「ブランケット・キャッツ」

 重松清 作

 朝日新聞社(画像は朝日文庫)

 

どうしてこう重松清の小説は,読んでいる私の弱いところをつついてくるのでしょうか。この短編集にも容赦なくつつかれて,思わず涙してしまいましたよ。
そして気付いてしまったのです。私の弱点は今まで他人とケンカしたことがないことだなあ…ということに。
怒ったり,怒られたりしたことはあったけれど,対等な立場に立って,お互いの主義主張をぶつけ合うということを,なぜ10代の頃にしておかなかったのだろうとただただ後悔しています。
思い返せば,そういう機会はたくさんあったのに,当時の自分はケンカするなんて恰好が悪いと思ってさらりとかわしてしまったのです。それが格好いいと思っていたんですねえ。
もしもタイムマシンが手に入ったら,あの日に戻ってケンカしたい…。

2013年

7月

27日

旅の絵本 Ⅷ


「旅の絵本Ⅷ」

 安野光雅 著

 福音館書店

 

安野氏の絵本はどれも,何度ページをめくっても飽きないものばかりです。この本も例外にあらず。

そして,巻末のあとがきは,必ず読んでいただきたいです。

繊細な筆のタッチが美しいのですが,中でも海の波を表現した筆のタッチが印象的です。

ミナ・ぺルホネンのテキスタイルにもなりそうな感じがします。

皆川明氏はきっと,安野氏の影響を強く受けていらっしゃるのではないかなあと思いました。

 

2013年

7月

27日

みて,ほんだよ!


「みて,ほんだよ!」

 リビー・グリーソン 文

 フレヤ・ブラックウッド 絵

 谷川俊太郎 訳

 

ちょっと薄汚れたようなこの本が主役です。

本を読んでいる時の現実と想像の世界を行ったり来たりしているような浮遊感というのか,幻覚感というのか,うまく言い表せないのですがその感覚を見事に絵に表現していると思います。

大人のための絵本ですね。

文章が先にできたのか,絵が先にできたのか,気になるところです。

第47回造本装幀コンクールの出版文化産業振興財団賞受賞作品ですので,ぜひ,実物の本を手に取ってみて欲しいです。

 

 

2013年

7月

26日

インバウンド

 

「インバウンド」

 阿川大樹 作

 小学館

 

偶然にも沖縄を舞台にした小説を連続で読みました。

映画を撮るとしたらこちらの方がいいかなあと思います。主人公は「国仲涼子」にお願いしたいです。金子綾音役を決めるのは難しそうですね。公募オーデションかなあ…と妄想が膨らみます。

沖縄が舞台であるにもかかわらず,沖縄らしい場面はごくわずかなので

そのシーンは最高の沖縄の風景を撮りたいものです。

私も昔,某メーカーのお客様苦情受付電話担当のような仕事をしたことがあるので,コールセンターのパートぐらいできるかなあと思いましたが,受信専用の電話をひたすら受ける仕事は,勝手がずいぶん違うのですね。

物語のように,初めにしっかり研修をしてくれる会社だったら,やってみたいなと思う仕事です。

 

 

 

2013年

7月

19日

ホテルジューシー

 

ホテルジューシー

 坂木司 作

 角川文庫

 

待ち合わせに先に来ていた友人が読んでいたのがこの本。「この人の『ワガシノアン』」が面白かったから」と友人曰く。その日さっそく帰ってから図書館に予約を入れたのですが,かなりの順番待ちです。そのことを次に友人に会った時に話したら,「じゃあ,これでよければ読み終わったから貸してあげるよ」と言って,貸してくれました。

とても読みやすいので,確かに待ち合わせなどに読むにはちょうど良いかもしれません。

登場人物それぞれに共感できる部分があるのも面白かったです。

冒頭,「身の丈に合わないものを欲しがる人は嫌いだけど,物にも人にもいい加減な人はもっと嫌いだ」と述べている主人公は,物語の最後では「物に対しても人に対してもいい加減なふるまいをする人たちと付き合ってみたけれど,どうにかなった」と,考え方が少し変わりました。

ですが,いい加減な人はこの物語には出てこなかったような気がします。

世の中もっともっといい加減な人がいて,そんな人の手にかき混ぜられたら,台風にあったと笑っているどころか,竜巻に根こそぎ飛ばされていくような気がするので,この部分はあまり共感できませんでした。

2013年

7月

06日

もものかんづめ

「もものかんづめ」

 さくらももこ 著

 集英社

 

この本を読むのは2度目なので,わかってはいたはずなのに。
失敗でした,久しぶりに電車に30分ほど乗る時に持って行ったのが…。
思わず笑ってしまうのをこらえるのが大変です。
にやりとするぐらいならまだしも,吹き出しそうになるので,それを抑えるのに腹筋が痛くなりました。

特に,不謹慎とは思いつつも「メルヘン翁」の章。
プッと笑いそうになって,髪の毛を直す振りなどしながらふと横を見ると,電車の扉のガラスに映った自分の顔。
自分でいうのもなんですが,結構いい顔してました。
「もものかんづめ」を読んでにやけている私って,幸せなんだなあ,と思えた一瞬でした。

2013年

6月

24日

タイル

 

「タイル」

 柳美里 著

 文藝春秋

 

夕食の支度をしながら,物語の結末を早く知りたくて斜め読みしてしまいました。

途中で「あれっ」と気付いたのは読むのが2度目だということ。

しかも,1度目も確か斜め読みしてしまったような気がします。

そこで,3度目はしっかり読みました。

やはり,柳美里の作品は苦手です。だけど,ついつい読んでしまいます。

村上春樹作品も同じです。

きっと読んでいる最中に「やめられないとめられない」分泌液が出ているのでしょう。

不思議です。

 

2013年

6月

23日

月へのぼったケンタロウくん

 

「月へのぼったケンタロウくん」

 柳美里

 ポプラ社

 

最愛の人と自分たちのこどものために絵本を残そうという約束を果たすために書いたそうです。

美しく,淋しく,物悲しい物語です。

柳美里は,「鶴の恩返し」の鶴のような作品の作り方をする人だなあと思いました。

コイヌマユキのイラストも素敵です。

2013年

6月

03日

フルハウス

 

「フルハウス」

 柳美里 著

 文春文庫

 

ポーカーで手元のカードがフルハウスだったとしたら…やはり欲を出してフォー・オブ・ア・カインドを狙いたくなります。でも,それにはカードを捨てなくてはいけません。しかも,ペアでそろっているカードをです。非常に悩ましいですね。

どうしようか,やめておこうか…当然ポーカーフェイスで葛藤を表に出すわけにはいかないのです。

隙間は少しぐらいあったほうが,遊びがあっていいと思います。

 

 

 

2013年

5月

20日

クローバー

 

「クローバー」

 島本理生 著

 角川書店

 

前述の「クローバー」と同じ題名のこちらの本を見つけたので読んでみました。

中西版は女子中学生の一人称ですが,島本版は男子大学生の一人称で物語が進みます。

どちらも共通して言えるのは主人公が恋愛をし,日々の生活をし,そしていろいろ思い悩むことです。

主人公の冬冶は双子の弟で,双子の姉の華子のお世話係で,何とも煮え切らない性格です。

だけど最後にははっきり決断を下します。でも,冬治にはもっともっとあれこれくよくよ悩んで欲しかったなあと思いました。

「あんなに優柔不断だったのに,こんなところで決めちゃっていいの?!」と突っ込みたくなるようなラストだったので。

他のレビューを読むと「著者らしからぬ軽い物語」という意見が多いようです。

 

 

2013年

5月

20日

クローバー

 

「クローバー」

 中西翠 作

 講談社

 

「毎週木曜日,しんとした図書室,四つ葉のクローバー……。探して,隠して,もう一度見つけて……。」

カバーのそで部分に書かれたこの文章にひかれてこの本を手に取りました。ちょうどこの日,待ち合わせ場所の近くに開店間近のカフェを発見。お店の名前は「クワトロハーツカフェ」,ロゴマークは四つ葉のクローバーです。

何だかご縁を感じて嬉しくなってしまいました。まだ,そのお店にはいっていないのですが…。

「鳥が獲物をねらうみたいに上から見るの。するとね,三つ葉の中からまちがい探しみたいに四つ葉が見えてくるんです。」と,四つ葉を見つけるコツについての文章を読んで,私も探してみたら早速見つかりました。

本に挟まっているものって,何か秘密めいていますよね。

2013年

5月

19日

ゴールドラッシュ

「ゴールドラッシュ」

 

 柳美里 作

 新潮社

 

今年のGW最終日は野毛山に用事があり,動物園の近くを通りがかりました。連休中はどこに出かけることもなく,普段通りの生活だったので,楽しそうな親子連れやカップルが大勢野毛山の公園や動物園に向かって歩いているのを観て,それだけでも連休気分を味わうことができました。ついた時間が少し早めだったので,動物園で時間でもつぶそうかと思いましたが,そこまですると周りのみんなに嫉妬を感じそうで,図書館で時間つぶしをすることにしました。

この物語の最後の場面は,おそらく野毛山動物園であろう場所の動物の檻の前です。

作者は神戸の「酒鬼薔薇事件」に触発されてこの本を書いたそうです。

私はこの手の暴力的な場面が多く,読んでいる者の胸をえぐるような問いかけがされる「重たい」話は非常に苦手なのですが,それでも最後までほとんどノンストップで読んでしまいました。

最後まで読んで,やはり苦手は克服できませんでしたが,柳美里の著書をほかにも読んでみたいと思わせる,心に残る一冊でした。

 

 

 

2013年

5月

19日

熱球

 

「熱球」

 重松清 作

 新潮文庫

 

野球にはさほど興味はありません。高校時代,野球部に彼氏がいたわけでもありません。けれども,高校生活最後の夏は,野球部の応援にはるばる電車を乗り継いで,野球場へ行きました。ルールもろくにわからないのに,声を張り上げて応援した記憶は,私の青春時代の思い出の一こまです。

作者も高校時代,「熱球」という応援ソングを声を張り上げて歌ったそうです。

そんな「熱球」という歌をベースに書かれたこの物語は,直球勝負から20年後のおはなし。

「甲子園」という確固たる目標物がなくても,夢を追い続けることを忘れてはいけませんね。

 

2013年

4月

27日

1Q84

 

「1Q84」BOOK1・2・3

 

 村上春樹 作

 新潮社

 

 

 ただでさえ方向音痴の私は,折返し階段のような方向が変わる階段が苦手です。

ましてや螺旋階段など使おうものなら,すっかり方向感覚を失ってしまうのです。

ぐるぐる回りながら階段を降りているうちに周りの世界がすっかり変わってしまっても,方向さえも見失っている私は,しばらく気付かないでしょう。

さて,実は私,村上春樹の作品が苦手です。

あっと言う間に村上ワールドに引き込まれていき,最後までドキドキしながら読み進めるのですが,最後にいつも肩透かしを食らったような,裏切られたような,すっきりしない読後感を味わうことになるからです。

けれども,この「184」は不思議とそんなことがありませんでした。いつも通り裏切られているのに,そのことに気付いていないのでしょうか。

もう一度じっくりと読んでみたいと思います。

2013年

4月

21日

やぎのブッキラボー3きょうだい

 

「やぎのブッキラボー3きょうだい」

 

 ポール・ガルドン 作
 青山南 訳

 

  ノルウェーの昔話「三びきのやぎのがらがらどん」をポール・ガルドンが描くとこうなります。
 全体的に明るい色彩,視点の角度が変わったり,ぐぐっとやぎやトロルに迫ったりする構図のとり方がいいですねえ。大勢の前で読み聞かせするのであれば,絵的にはこちらの方が私はおススメです。
 やぎの名前は「ブッキラボー」より「がらがらどん」の方がしっくりきますかねえ。最後の「“Snip,snap,snout.This tale's told out.”」の訳も,「三びきの…」のほうが耳にしっくり来るかなあと思いますが,人それぞれ,感じ方が違うでしょうね。
 原文を読んだり,いろいろな方の訳を読んだりすることがますます楽しくなりました。

 

 

 

 

2013年

4月

21日

舟を編む

 

「舟を編む」

 三浦しをん 作

 光文社

 

 さすがは本屋大賞受賞作品です。図書館での予約待ち順位は確か3ケタ,予約してから一年後にやっと手にすることができました。

 一年は長いですが,この物語の中で辞書が編まれ,人々の手に届くまでにはその十五倍の月日がかかりました。

 辞書を手にすると,何故かいかがわしい言葉の意味をひいてしまう…私ももちろん経験者です。どんな言葉を引いたのかは,ご想像にお任せします。

 言葉の意味を説明してもらうのが,心理テストのようで面白いなと感じました。どのような言葉を用いて,どんな例文を示すかによってその人の人となりがわかるような気がします。

 そこで「あむ」を説明してみます。①毛糸や糸のような細長い形状のものをからませていって面状のものを作ること。②本などを編集すること。③幼児言葉というのかどうかは定かではないですが,何かをたべる真似をしながら発する言葉…いかがでしょうか。 

   物事を分析研究することって,楽しいですし,それにまつわる裏話を聞くことは,さらにわくわくしますね。

 夏目漱石の「こころ」を読み返したいと思います。

 

 

2013年

4月

20日

ゆらゆらばしのうえで

 

「ゆらゆらばしのうえで」

 きむら ゆういち 文

 はた こうしろう 絵

 福音館書店

 

 降りしきる大雨と激しい流れの川の水しぶきが表現された絵がいいなあと思いました。

 木村氏と言えば代表作に「あらしのよるに」があります。

 「あらしのよるに」はまっくら闇の中でのオオカミとヤギの会話が面白いのですが,こちらは激流にかかる橋の上のきつねとうさぎの会話です。

 追いかけるものと追われるものの情景を「ピッ」とストップさせて,生きるものと生きるものという対等な情景にし,お互いを向き合わせる物語に変化させる…技ありですね。物語の進むスピードの変化を感じるのも楽しいですよ。

 

2013年

4月

20日

三びきのやぎのがらがらどん

 

「三びきのやぎのがらがらどん」

 マーシャ・ブラウン え

 せた ていじ やく

 福音館書店

 

 本の内容紹介によると「山の草をたべて太ろうとする3匹のヤギと、谷川でまちうけるトロル(おに)との対決の物語。」とあるので,弱いヤギたちが知恵を絞って荒くれ者のトロルをやっつける話かと思いましたが,意外な展開です。原題を見てなるほどと思いました。

 日本の昔話にはなかなかこういう話は見当たりません。それもそのはず,「三びきのやぎのがらがらどん」はノルウェーの昔話です。北欧の昔話をいろいろと読んで日本のそれと比較してみたくなりました。

 「お腹が空いて草を食べに行く」のではなく「太ろうとして」という表現も「あれ?」と思いました。最後の「チョキン,パチン,ストン」は,日本の昔話に良くある「どんとはれ」とか「とっぴんぱらりのぷ」などに似ていますが,原文ではどういう表現になっているのでしょうか。

 他の出版社からも違う人の絵や訳で絵本になっているようなので,原文と併せていろいろと読んでみたいと思います。

 

2013年

4月

20日

本棚の本

 

「本棚の本」

 アレックス・ジョンソン 著

 グラフィック社

 

 

 表紙の木の形をした本棚のみならず,本棚=箱型の発想の枠をはるかに超えた本棚の数々を集めた本棚の写真集です。

 本好きの方にはたまらない一冊だと思います。

 私が気に入ったのは丸い形をした本棚で,本棚でできた空間の中で本を読めるというものや,ブックバイクなどです。

 「ホンノハシ」もオリジナルのブックカートに,おススメの本やオリジナルの本を詰め込んで,全国行脚の旅に出てみたいなあと思いました。

 著者のブログも面白いですよ。「alex johnson bookshelf」で検索すればヒットするはずです。

2013年

4月

15日

虹の橋~キッド~

 

「虹の橋~キッド~」

 

 山川健一 作

 小学館

 

 「虹の橋」は原作者不詳の詩ですが,多くのペット愛好家に,ネットなどを通じて伝わっているそうです。

 もともとはインディアンの伝説に基づくという説もあるそうです。

 ペットとの別れがテーマのこの物語,ありがちな「お涙頂戴」系ではなく,淡々と描かれているところが気に入りました。「お涙頂戴」は苦手なので…。

 とある小説家の先生いわく,「涙を流すのは生理現象だから,泣かせる小説を書くのは簡単なテクニックだ」とのことで,この言葉に納得した後は,なおさら「泣かせる小説」が苦手になってしまいました。

 

2013年

4月

15日

幕末時そば伝

 

「幕末時そば伝」

 鯨統一郎 作

 実業之日本社

 

 ミステリー小説というと,見えない結末に向けて作者が掲示してくるヒントを拾い上げながら読み進めていく面白さがありますが,これは新しい手法のミステリー小説です。

 多くの人が知っている落語の「オチ」に向けて,物語が展開していくのです。

 そして起こる事件は幕末の一大事。

 探偵か推理好きの主人公が謎を解いていくのではなく,粗忽長屋の八と熊が,物語を「ひっかきまわして」いきます。

 有栖川有栖氏の解説も必読です。この小説の奥深さに気付かされますよ。

 

2013年

4月

01日

東海道中膝栗毛

 

「東海道中膝栗毛

  (21世紀に読む日本の古典⑱)」

 

 谷真介 著

 村上豊 絵

 

 

 日本橋をスタートに道楽者の弥次さん,喜多さんが東海道を旅する珍道中記で,江戸時代の大ベストセラーになった作品です。

 ものは壊すは,喧嘩はするは,人をだましたりだまされたり,やりたい放題なのですが,「旅の恥はかき捨て」を合言葉のように,後腐れなく次の地へと旅立っていきます。

 何か困ったことが起こっても,洒落の利いた川柳を読んで笑い飛ばしてしまう二人の姿は,当時の人たちの人気を集める理由の一つでしょう。

 作者の十返舎一九はこの粗忽者の二人とは対象に,とても真面目な人だったそうですよ。

 神奈川宿での話も入っているので,そこで一九が「かめのこせんべい」について一言書いていてくれれば,かめのこせんべいもなくなることなく生き続けてくれたかもしれないのに…と思います。

 

2013年

3月

31日

武蔵坊弁慶

 

「武蔵坊弁慶(源平絵巻物語第二巻)」

 

 赤羽末吉 絵

 今西祐行 文

 偕成社

 

 京都の五条の橋の上で笛を吹いていた牛若丸に戦いを挑み,負けて家来になった話は有名ですが,他にも色々と話があるのですね。

 お母さんのおなかに18カ月もいたという話から始まって,自称坊主で寺に勝手に修行に行ったり,ライバルの坊主を屋根の上に投げ上げたり…

 中でも印象的だったのが,そのライバル坊主の戒円に,昼寝をしているすきに顔に墨で落書きをされてしまったところです。

 現代でも酔っぱらって寝ている人の顔にマジックでいたずら書きをする人が時々います。いたずらの内容はとてもばかばかしいのですが,これが昔から伝わるいたずらであると知ると,少し高尚な気がしないでもないですね。

 

 

 

2013年

3月

28日

青春夜明け前

 

「青春夜明け前」

 重松清 作

 講談社文庫

 

 10代,男子,考えることはただ一つ,おバカな時代を描いた短編集です。

 なんとも切ない物語が多い重松清の作品で,これもまた,ちょっぴり切ないのですが,なんせ「おバカ時代」の物語なので,思わず笑ってしまう場面が連続です。電車の中で読まなくてよかった…。

 「モズクとヒジキと屋上で」が中でも一番笑えて,切ない気持になりました。

 青春かあ…当時は本当に小さな小さな世界の中に居て,それが全てだったけど,未来だけは無限に目の前に広がっていて,それが不安にさせる原因だったのかなあと,今思い返してみると感じます。

 今はある程度なんでもわかってしまって,「無限」なんて言葉とはすっかり縁遠くなってしまった日々を淡々と過ごしています。いやいや,相変わらず未来は無限に広がっているのに,勝手に限界を決めてしまっているだけですね。

 

2013年

3月

24日

さくら

 

 

「さくら」

 

 西加奈子 作

 株式会社小学館

 

 

 さくら(かどうか本当はわからない)の花びらが尻尾についていたので「サクラ」と名付けられた犬と5人家族の物語です。

 哀しかったり,切なかったり,マイナスイメージの場面でも,犬一匹いるだけで,なぜか穏やかな気持ちになれて落ち着くことができるのはとても不思議です。

 人間同士だと,お互い何を考えているのかばかりが気になってしまいますが,相手がペットだと,純粋に相手の「呼吸」だけを感じ取ればいいからかもしれません。

 ところで,我が家のお犬様,一週間よそに預けたら,一人で留守番ができない甘えんぼになってかえってきました。「も~何考えているの~」と私を困らせていますが,一週間のうちに呼吸が微妙に変わってしまったのは案外こちら側で,それに戸惑っているだけなのかもしれませんね。確かにここのところバタバタと忙しかった…。

   もとのあうんの呼吸にお互い戻れるように,のんびり構えていきたいと思っています。

 

2013年

3月

24日

一話3分 落語ネタ入門

 

 

「一話3分 落語ネタ入門」

 桂歌若 著

 朝日新書

 

 

 

 

 

 「笑点」でもおなじみ桂歌丸の弟子・歌若による,落語界の裏表をひもといた一冊です。

 これを読むと生の落語を断然聞きに行きたくなります。

 私は落語が大好きですが,ラジオやテレビを通してで,生の落語は兄の高校時代の文化祭で落語研究会による一席を観ただけです。

 最近,文楽や津軽三味線,狂言など,日本の伝統芸能にがぜん興味がわき始めていますが,落語ほど庶民的で,なおかつ現代社会にも通じる伝統芸能はないなあと,本書を読んで改めて感じました。

 そしてまた,お囃子や小道具の使い方,マクラでの人の引きつけ方など,ホンノハシの活動にとても役立つヒントが満載です。

 本書にも書かれている落語の楽しみ方を参考に,生の落語を楽しみに行きたいと思っています。

 

2013年

1月

30日

リボン

 

  「リボン」

   作 草野たき

   出版社 ポプラ社

 

 15歳の少女の移り変わる心の動きが丁寧に描かれています。

 先輩を見送る卒業式のシーンから始まり,自信が見送られる卒業式のシーンで締めくくられる一年間の物語です。

 お母さんの気持ちはちょっと切ないなあと思いました。自分自身のことを重ねて,あれこれ考えてしまったからかもしれませんね。

2013年

1月

30日

13階段

 

「13階段」

 作 高野和明 作

 出版社 講談社

 

 

「犯行時刻の記憶を失った死刑囚。ある時ふと死刑囚の脳裏に甦った『階段』の記憶。それを頼りに冤罪を晴らすことはできるのか。」

   全てのことがつながりすぎている印象も無きにしも非ずですが,死刑囚をめぐる社会問題が中心軸にしっかりとあるために,そんなことはあまり気にならず,最後までぐいぐいと話に引き込まれていきました。

 「罪と罰は,すべて人間の手で行なわれた。人間がやったことに対しては,人間自身が答えを出すべきではないのか。(本文より)」…深いですねえ。

  宮部みゆき氏の解説も面白いです。デビュー作の解説が宮部みゆき氏だなんて,この作者のすごさを表しているのではないでしょうか。

2012年

11月

04日

華氏451度

 

 

「華氏451度」

 レイ・ブラッドベリ 作

 早川書房

 

「本の虫」に出てきて,非常に興味がわいたので読んでみました。(B級)映画化もされているそうです。

 始めのほうはもどかしくなるほどに周りの状況や心理描写がされているのですが,途中からものすごい勢いでどんどん話が進んでいくので,私はついていけませんでした。

 さんざん「戦争が始まる」ことをにおわせていたのに,戦争が始まるのも終わるのもたった一行なんて…。

 こういう本は他の人の感想を聞いてみたいです。

 「華氏451度」という題名はとても好きです。

 

2012年

10月

10日

はじめのいっぽ―My Creative Source

 

 

 

「はじめのいっぽーMy Creative Source」

 所蔵 「LIBRARY PROJECT」

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 黄金町アートバザール2012の参加アーティストの期間限定図書館に所蔵される,つい数時間前に出来上がったばかりの本です。

 私がモノづくりをする時の基となっているものは一体何だろうと考えた時に,小さい時に自分の家や幼稚園の庭,近所の空き地や公園で遊んだことが,スライドショーのように頭の中に浮かびました。

 それらの記憶のかけらたちを一冊の本にまとめました。 

2012年

10月

01日

D列車でいこう 

  

  「D列車でいこう」

   作 阿川大樹

   出版社 徳間書店

 

 銀行の支店長まで出世するも,「ここは自分の居場所ではない」といつも感じている銀行マン,MBAを取得していながら,男社会の中でくすぶっているキャリアウーマン,官公庁を早期退職して悠々自適の日々を送る鉄道マニアの3人が,廃業間近の山花鉄道再建に挑む話です。

 綿密な設計図のもとに組み立てられたストーリーにすぐに引き込まれていきます。難しい専門用語などもなく,団塊世代の郷愁を誘うようなウィットが小粒ながら効いていると思います。若い世代の読者にとってはこれがある意味「専門用語」になるのでしょうが。

 そんな設計図通りの物語の中で,気になる点が一つ。

 キャリアウーマンがセクハラを受けたと仲間に告白する場面があります。彼女は仕事がしにくくなるので相手の名前はプロジェクトが全て終わるまで言わないといいます。

 結局,相手がだれであるのか明かされないまま物語は終わるのですが,いったい誰なのかとても気になります。

 もしかすると次回作の伏線では…と思うのは考えすぎでしょうか。

 いずれにしても阿川作品,今後も色々と読んでみたいと思わせる一冊でした。

 

 

2012年

9月

24日

本の虫 その生態と病理―絶滅から守るために

  「本の虫 その生態と病理

       ―絶滅から守るために」

    作 スティーブン・ヤング

    訳 薄井ゆうじ

 

 

 題名はまだ無名の「ホンノハシ」と一字違い,著者名はかの有名なスティーブン・キング氏と一字違いです。

 この本がおもしろいと思う人は本の虫に感染していて,つまらないと思う人は本の虫に感染していないのだと思います。私はどうやら感染しているようです。

 どこまでが真面目な話で,どこまでがおふざけなのかさっぱりわかりません。おまけに著者紹介には「『本の虫』研究のフィールドワークのために,アメリカの荒野を好んで旅している。某作家のペンネームらしいが,諸事情があって明かせない。」と,謎だらけです。

 この本の中で紹介されているレイ・ブラッドベリの「華氏451度」をぜひ読んでみたいです。 (ほらね,やっぱり感染してます。)

 

2012年

9月

15日

ものぐさトミー

 「ものぐさトミー」

  文・絵 ペーン・デュボア

  訳 松岡享子 

   出版社 岩波書店 

 

 原作は「LAZZY TOMMY PUMPKINHEAD」です。

 今のご時世,トミーの姿を原発の問題にさらされている日本や,そこに住む私たち自身の姿に置き換えて読み進める人は,少なくないと思います。

 日本も私たちもどうか「かぼちゃ頭」と言われないように,日々の暮らしに新しいページをひらくことができますように。

 …と,難しいことを並べましたが,おはなしは単純明快,ナンセンスで楽しめますよ。

 

2012年

9月

14日

みどパン協走曲

 

 

「みどパン協走曲」

 作 黒田六彦

 絵 長谷川義史

 出版社 BL出版

 

 

 この作品は第8回ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作品で,受賞時は「照常寺のみどパン小僧」というタイトルだったそうです。読み終えた私は「改題は成功」と感じました。 個人的に「お寺」→「しょうじょうじ」→「たぬき」の連想は好きですけど。

 この作品の中では「樹木」が大事な場面で効果的に使われているような気がします。

 ポプラ,椎,柊,榎,甘夏の木,けやき,桜,杉,寒椿,柚…。

 きっと作者のこだわりが何かあるのではと思います。もしも作者とお話しできる機会があったらうかがってみたいことの一つです。

 

2012年

9月

14日

こびととゆうびんやさん

 

 「こびととゆうびんやさん」

  原作  カレル・チャペック

  絵と文 みよしせきや

  出版社 偕成社

 

ずっと探していたのに絶版のため,どこの古本屋さんのサイトでも「SOLD OUT」だったこの本が,先日やっとお目見え…だが…しかし…出版当時のおそらく3~4倍のお値段にしばし硬直。

 「でもさあ,これ,絶版だよ」と私の中の天使か悪魔のささやきにのせられて買ってしまいました。

 しかしながら,この判断は間違っていなかったと,届いた絵本をめくって確信したのです。

 「手紙に温度がある」のはお話の中だけのことではないのではと思います。

 最後にテクテクさんが切手不足代金として30円だけもらって帰って行くところが,なんだかのんびりしていていいなあと思いました。